1−終 大暴れの後始末
昼間、木の葉と寺院の装飾が、千の光を跳ね返し辺りをキラキラと照らす。
そのきらめく光の中、寺院の裏口で二人の人間がコソコソと何かを相談している。
「はいっ! お願い致します!」
ネモは啜り梟の創った本を、自身を食事時に叱りつけた三級神官に手渡す。
「これを上手く使えば、被害者の女性の助けになるはずです……どう使うかは貴方次第ですが」
「すまんな……ソフィ君……いや……白雪姫……と言ったほうが良いのかな」
ネモは苦笑いをする。
「バレてましたか……」
「人目を避けて我々の懐を探る若き超一流の氷魔法使い……と言われたら……ピンと来る者もいるさ、生きていたとは思わなかったが……」
「…………そうですね」
「君達にあのような事をした私たちを、こうして救ってくれる……そんな君に私はどうしたら良いか、私のちっぽけな価値観では全く分からん……」
「僕だってわからないです……でも、笑える人が増えること! それが一番良いんじゃないですかね……」
寂しげに笑いうネモ。
「そうだな……せめて、せめて君に幸福が訪れる事を願う」
「……私の事は良いんです、でもその分もフェリスさん達、今回の被害者たちを……気にかけてほしいです……」
「……ああ、解った、神に誓おう」
「…………」
ネモは右耳のサファイアのアクセサリーを外して三級神官に渡す。
「その本と共に、これを……彼女達に役立つ形で使ってほしいです、何人かの一生くらいなら助けられる価値はあるはずです」
「約束しよう……どんな形であろうと……私が彼女達の人生を良き方向に向けていく……そして……本当にありがとう、君のおかげで、ここの醜悪に気が付くことが出来た……」
「……よかったです」
「本当に……私たちが君達にした仕打ちに……」
ネモは苦笑いし語りかける。
「貴方は何も悪くない……ヤズマト元最高神官」
三級神官は目を見開き驚く。
「知っていたのか……」
「貴方の魔力をみれば嫌でもわかります……ここで一番強いのは貴方です、でも教会内の派閥争いでズルされて三級に落とされた、そんな所かなと」
ネモは続ける。
「ズルや搦手が苦手な貴方でも……その梟の本に書かれた情報とその魔力があれば流石に教会内でも上手く立ち回れるでしょう、先も言ったように、どう使うかはあなた次第ですが」
ヤズマトは深く俯く。
「かないませんな……白雪姫様には」
「ふふっ……やめてください……」
「死んでも貴方様の事は他言しますまい……受けた恩が多すぎる」
その言葉を受け、ネモは優しく寂しそうに微笑みながら言う。
「ありがとうございます……、でもご自身の身の危険を躱すためであれば、遠慮なく他言してくださいね?」「…………そうさせて頂きます……きっと貴方は……私が痛みを受けることを、自身が痛みを受けることより、煩悶苦痛に感じる方でしょうから……」
「ははっ……買いかぶりすぎです……それでは、もう行きますね……連れを待たせておりますので……」
そう言うとネモは踵を返してその場を去る。
ヤズマトはその小さな背中を見て呟く。
「氷雪の女王、魔王の懐刀、白雪姫、魔王軍四大将、裏切り物、彼の異名悪行数知れず……か……世の中……一体何が真実なのか……分からなくなってきたよ」
寂しそうに項垂れ街道を歩くネモ、その寂しげな肩をジェラルドはバンバンと叩いて話しかける。
「元気出せ!」
「…………出すべきなのはわかってんだけどさ……」
寂しそうな顔、悲しそうな顔。
「ふーん……まあ元気でないよな、でもな! お前が元気無くても誰も元気にはならんぞ! むしろ俺がちょっと元気無くなっちまう! だからマウントアンダーでまた一杯やろうぜ! 飲んで振り切っちまおう、そのむしゃくしゃ!」
痛いくらいに肩をバシバシ叩いてくるジェラルドに思わず笑みが零れるネモ、あえて陽気に振る舞って自分を気遣ってくれていることがたまらなく嬉しい。
だが素直に喜んでいることを伝えるのは少し悔しい。
捻り出した言葉は一つ。
「ジェラルドの奢りだからね!」
「おう任せろ!」
ネモとジェラルドは元気に、マウントアンダーに歩みだした。
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