伏線(2/3)「指摘する人の気持ち」

 数分した後、面接官が来た。1対1で行った。

 面接は、いつも通り、聞かれたことに対して、分かりやすく具体的に答えた。だいたい、自己PRや志望動機、あと、営業事務を志望する理由、IT業界を選んだ理由など、教科書通りの質問ばかりだった。今までは、「自分を色に例えると、何ですか」とか、変化球があったけど、ここはなかった。ただ、「履歴書に書いた自己PR」だけ、一番深入りしていた。

 「長所に、『細かいところまで、気を配る』とありますが、日常では、どういうところに気を配っていますか?」

 「はい。日常では、時々、家の中に、少しでも埃とか汚れがあれば、掃除機や雑巾で綺麗にするようにしています。この習慣は、学校やバイト先でも、役立っています。」

 「ちなみに、ご自宅では、よくどの辺を掃除しますか?」

 「リビングの壁の隅っこです。棚の後ろとか、死角に溜まっているものなので、その辺の掃除は、欠かせません。」

 「本当に、細かいところまで考えているのですね。素晴らしい長所です。」

 「ありがとうございます。」

 「話を戻しますが、人間関係で、気を配っていることは、ありますか?」

 「はい。関わり方には、気をつけています。性格をよく分かっていないで、話しかけると、何か地雷を踏んでしまうこともあるので、最初は、当たり障りのない世間話をしながら、どんな人かを見るようにしています。」

 「気配り上手なのが伝わってきますね。」

 「ありがとうございます。」

あと、「何か質問はありますか」という逆質問もなかった。たいていの就活生は、これがなくて、安堵するだろう。だけど、僕には、言いたいことが2つあった。

 「これで、面接を終わります。結果は、3週間ほど後、メールでお知らせいたします。お疲れ様でした。」

 「ありがとうございました。」

 立ち上がってお辞儀をした後、出口のドアまで歩く。その途中、僕は、悩みに悩む。

 言うべきか、言うべきではないか。いや、言うべきだ。いや、上から目線な気がするし、言わなくていいか。いや、言ったほうが・・・。

 「あの、一つ、よろしいでしょうか。」

 迷った挙句、僕は、面接官に話しかけた。

 「何でしょうか。」

 「一つ、いや2つ、気になることがありまして。まず、トイレのゴミ箱が、満タンでした。常に、回収するように貼り紙があったので、総務部の人に言ってみたら、いいと思います。」

 「これは、失礼いたしました。後ほど、総務部に伝えておきます。それと、もう一つは、何でしょうか。」

 面接官に聞かれると、僕は、バッグからペットボトルの緑茶を出した。テーブル越しで彼の前に近付き、ペットボトルの蓋部分に書かれた小さい表記を見せた。

 「いただいといて、すいませんが、このお茶、賞味期限が切れてました。」

 面接官は、両手を頬につけ、ムンクの叫びのように絶望した顔になり、深く頭を下げた。

 「こっ!これは、大変失礼いたしましたー!!す、すぐに取り替えますので、お、お待ちください。」

 面接官は、僕から緑茶を受け取り、慌てて、部屋を出る。余程、焦っていたのか、テーブルの脚につまずいていた。

 「あ、はい・・・。」

 なんだか、言って後悔が残る。社会の窓が開いているおじさんを注意したみたいで。

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