第6話 陰謀だらけ
……何か変だ。
俺は貴族の血を引いていて、母親も美人だったから、顔はそこそこ整っている。
美容魔道具も使っているし、見た目が悪いわけではない。
だが、それにしても……
ポップルとイフエルスの態度は、どう考えても不自然だ。
そもそも、なぜ俺が元貴族だと知っていた?
廊下でスクリプトと偶然会ったのも出来すぎている。
さらに、二人の羞恥心の薄さも気になる。
ポップルのスキルは透視・浸透物理攻撃・念動。
鍵開け師としても一流になれる組み合わせだ。
イフエルスのスキルは肉体変形・筋力強化・誘引物質。
戦闘職として優秀だが、引退するには若すぎる。
古傷もない。
どう考えても、ただの元冒険者ではない。
結論として。
二人は冒険者ギルドの暗部要員だ。
スクリプトは俺を徹底的に調べている。
俺が二人に気を許せば、情報を引き出せる。
そういう配置だろう。
俺たちは冒険者ギルドに向かい、スクリプトとの面会を申し込んだ。
待たされることなく執務室に通される。
「ちょうど良かったぜ。賄賂王のリスプが呼んでる。それとジャバがドラゴン素材の権利を一時的に放棄するそうだ」
……罠以外に考えられない。
「今回、俺は“ドラゴンスレイヤー”として呼ばれてるってことか?」
「まあな。察しが良くて助かるぜ。確実に罠だ。お前を始末して、ジャバは後から素材を奪うつもりだろう」
王に会わなければ『ドラゴンスレイヤーではない』とされ、
素材を盗んだ罪で処罰される。
俺ならそうする。
罠から生き残っても、偽ドラゴンスレイヤーの火種は残る。
実際に俺はドラゴンを倒していない。
表彰されたら嘘が確定する。
……狡猾だ。
伊達に魔道具ギルドを牛耳っているわけじゃない。
早く心臓を治したいのに、次から次へと問題が降ってくる。
「だぁ! いい考えなんか出ない!」
「アドバイスしてやる。罠なんかぶち破れ。それが男ってもんだ。危険に飛び込む勇気がなきゃ、生き残れん」
「……そうだよな。虎穴に入らずんば虎子を得ず、か」
虎子……つまり報酬を考える。
「【生成AI】、俺を除いて、賄賂王がもっとも関心を寄せているものは?」
――――――――――――――――――――――――
あなたを除外して調査した結果、賄賂王が現在もっとも強い関心を寄せているのは、不老不死に関する研究であると推測される。
彼の支出帳簿を精査すると、関連する研究者や秘術師への資金提供が不自然なほど集中しており、その執着ぶりがうかがえる。
特に、ドラゴンの卵に対しては異常なほどの期待を抱いているようだ。
王城の宝物庫目録によれば、その卵は確かに保管されており、賄賂王が多額の費用を投じて入手した可能性が高い。
以上の点から、賄賂王の最大の関心事は「不老不死の実現」であり、その鍵をドラゴンの卵に求めていると考えられる。
――――――――――――――――――――――――
不老不死か。
権力者はどこも同じだ。
「なら、ドラゴン討伐の褒美に『宝物庫の宝を一つ』って言ってみろ」
「くくく……スクリプト、お主も悪よのう」
「はははっ。パイソン、お前ほどじゃない。戦争の準備は整ってるぜ」
ドラゴンの卵を確保できれば、交渉材料としては最強だ。
戦争になればスクリプトが動くだろう。
悪人相手なら、俺の胸も痛まない。
「全く、男って戦うことばかり考えるんだから」
「でも、ドラゴンの卵を奪えば戦争になるわね」
「ちょっとワクワクするかも」
「喧嘩を売ってきたのは向こうだし」
その時……扉が轟音を立てて吹き飛んだ。
俺は即座にボットを起動する。
スクリプト相手でも油断はしない。
黒ずくめの人物が倒れ込んだ。
ドラゴンを殺した暗殺者だ。
女性らしい。
「殺すのは避けたいわ。私に任せて。スキャナー魔道具を貸して。隣の部屋を借りるわ」
フォルトゥナが暗殺者を引きずり、隣室へ。
しばらくして、何やら激しい声が聞こえてきた。
やがて、フォルトゥナと暗殺者が戻ってきた。
「……フォルトゥナ、あれは?」
「相手の心理を読むのよ。だから、対話が早いの」
「なるほど……」
どんな対話なんだか。
「じゃれ合いみたいなものよ。危害は加えてないわ」
どんなじゃれ合いなんだか。
「リタよ。これからは私たちの仲間になるわ」
「よろしくお願いします。お姉様がた」
リタは落ち着いた表情で頭を下げた。
どうやらフォルトゥナが説得したらしい。
えっ、どうみてもリタの方が年上だろう。
スクリプトがクラン申請書を持ってきた。
日付はドラゴン討伐前。
完全にスクリプトの掌の上だが、損はない。
リタを含めた全員が署名。
「これで、お前のクランがドラゴンを討伐したことになる。リーダーのお前はドラゴンスレイヤーだ」
「ついでに頼もしい仲間も増えたわね」
ベイシーが笑う。
「リタ、お前、裏切り者として殺されたりしないのか?」
「しない。というか最初の失敗で粛清対象」
ええと、俺に対する口調があからさまに違う。
理由はわかるけど……。
それにしても……。
「フォルトゥナ、お前、いつの間にそんな交渉術を?」
「勘よ。女のね」
フォルトゥナがウインクする。
念聴スキルで相手の望みを読み取ったのだろう。
そりゃ説得も早い。
どんな望みかは突っ込まないぞ。
フォルトゥナ、恐ろしい子。
「さて……王城からドラゴンの卵を奪いに行くとしますか」
「ええ、敵地に乗り込むわ」
「耐物理攻撃念動シャツを重ね着しないと」
「可愛くないから、パス」
「みんな、リタに任せればオッケー。リタ、頼むわよ」
「はい、お姉様。野郎になど指一本触れさせません」
隠す気ゼロだな。
女騎士が来たらどうするんだろう。
フォルトゥナ無双が炸裂するのかな。
「【生成AI】、城の見取り図を見取り図.jpgとして出力して」
――――――――――――――――――――――――
見取り図.jpgを出力しました。
警備巡回ルートも出せますがどうしますか?
――――――――――――――――――――――――
「【生成AI】、いつも思うんだけどソースは?」
――――――――――――――――――――――――
見取り図は近衛騎士の団長室金庫の中の地図からです。
紙媒体は全て学習済みになってます。
――――――――――――――――――――――――
「【生成AI】、さっきのjpgファイルを表示するプログラムをpythonで作って?」
―――見取り図表示.py―――――――――――――
from PIL import Image
img = Image.open("見取り図.jpg") # 表示したい jpg のパス
img.show()
――――――――――――――――――――――――
ちなみにファイルは俺の頭の中にある。
深く考えても仕方ない。
みんなで見取り図を見る。
「地下室がある」
「隠し通路も載ってる」
「隠し金庫もね」
「こういうのは写しが欲しいわね」
「いや、写しを持っていたら言い訳できない」
「そうね。パイソン、あったまいい」
「ありがと」
「このぐらい子供でも気がつく」
「リタ、私が馬鹿だって言いたいの」
ベイシーとリタが険悪だ。
「いいえ、ベイシーお姉様は馬鹿ではありません。あれは褒めて男を操縦するという崇高な手管です」
「そんな、考えはないけど」
ベイシーに言い訳して、俺とベイシーに溝を作る作戦か。
リタ、恐ろしい子。
「【生成AI】、王族所有の城の見取り図を王族見取り図.jpgとして出力して」
――――――――――――――――――――――――
それは学習データに存在しません。
貴族の日記によれば口伝でのみ伝えられているようです。
貴族が描いた想像図を王族見取り図.jpgとして出力しました。
――――――――――――――――――――――――
用心深いやつらだ。
さすがに秘密の逃げ道は、知られると危険だと認識しているんだな。
想像図が気になったので、表示してみる。
速攻で表示を消した。
「うわっ、見ちゃ駄目! 口に出せない部屋があったな。想像の産物だと良いんだけど」
これが本当なら、王族はかなりやばいぞ。
噂をまとめたのだろうけど。
二割が本当でも、ドン引きレベルだ。
「私、王家の出生の秘密とか読みたい」
「悲恋がいいかも」
「恰好良い騎士の英雄伝がいい」
「禁断の恋が至高」
「暇になったらな」
こんなのを出したら、みんなニートになってしまう。
そんな気がした。
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