第22話 【20】悠久の記憶
――――突如現れた魔物にその場は緊張状態となる。それと共に守るべきもののために戦わねばと言う闘志に満ちる。それが魔物と隣り合わせに暮らすこの世界のものたちの生存本能だ。
「私たちも参戦する!」
フリージアが素早く剣を構える。
「だが……」
「私もクォーティアの戦士よ!」
「私も援護する!」
レベッカが魔法を放つ構えを見せる。
何だ……何だ、この覚えがある感じは。
【……アル】
その声は覚えがあると言うか知っている。アルさんに呼び掛ける声だ。
【あの魔物は絶命の瞬間に仲間を呼ぶんだ。とは言え種別は違う。物理で応戦できるあれとは違いアイツらは……しか効かない】
それはどこから得た知識なのか。本当のことなのか分からない。
「……覚えている。何となく感触がある」
そのことを思い出せば自然と手のひらに魔力が宿る。
「きゃん?」
「何となく分かるんだ。みんな、あれに有効なのは無属性魔法だ!」
【それ以外は吸収する】
それを思い起こさせたのは、誰だ?どこかで長兄が微笑む声がした。
「でもそんなのどうやって……」
「大丈夫だ、フリージア。覚えているから」
手のひらの魔力を放つ。
これがどういう魔法なのか、魔法の呪文も分からない。しかしそれは確かに魔物にヒットし、バランスを崩した。
「キャキャーンッ」
「シギ……?」
シギが高らかに鳴き、大地の口が開けば巨大な口に魔物が呑み込まれていく。
【ああ……高級肉が】
残念そうに呟く声を覚えている。そうか……2度目だな。
「でもシギになら。たくさん食べて大きくなれよ」
「きゃん」
「お前も覚えているのか?」
「きゃーん、きゃんっ」
シギはたくさん食べたのか、満腹感で安心し甘えたくなったのかきうっと丸くなり俺の腕に収まる。
「倒したのか……」
「さすがは黒魔竜ね」
レインさんとフリージアがホッと一息つく。
「シギちゃん、あの魔物を食べて大丈夫だったのかしら?」
レベッカが心配そうにシギを見る。
何でも食べるとは言え、心配になる気持ちは分かる。
「大丈夫だよ、高級肉だから旨かったはずだ」
「え、そうなの!?」
レベッカが驚いている。
「あまり知られていないのかな?」
いや……あんな無属性魔法しか通じない魔物が度々出現し広く知られていたらそれはそれで脅威か。
「ロジーたち!無事か!」
そしてアルさんが教員たちを連れてやって来る。
「アルさん!来てくれたんですね!」
「ああ……ルオがロジーひとりでいけるからと妨害してきたが」
「ええぇっ!?」
確かに倒したが、倒し方を思い出させてくれたのもルオさんである。
「かわいい子には旅をさせよと言うけど……迷惑料要求してもいいよ」
「いやぁ……その、俺も魔法ちゃんと使えたから。多分ルオさんは俺を信じて背中を押してくれたんだと思う」
本当に兄代わりと言うか親代わりと言うか。
「……ま、そう言うことにしとく」
「ありがとう、アルさん。だから怒らないでね」
「怒ったところで……あのひとのすることにはちゃんと意味があるんだって分かってる」
アルさんの手が俺の頭を撫でる。
「ほかの魔物も教員たちが片付ける。想定外の魔物が発生した以上は今回の研修も中断だ。校舎に戻ろう」
アルさんの言葉にレベッカたちも頷く。
「その、アルヴィンさん。ごめんなさい、俺がついていたのに」
しかしレインさんが申し訳なさそうに告げる。
「いや……お前もよくやったよ。それにまだ学生なんだ」
アルさんの口調はまるで目をかけてる後輩に対するもののように柔らかだ。
「ひとりで対処することだけが正解じゃない。勇者にもそんな義務はない。これから経験を積んで成長すればいい」
そう言えばアルさんって勇者に対して明らかに詳しいような。
「お前はそうできる時代に生まれることができたんだから」
「はい、アルヴィンさん」
レインさんがアルさんの言葉に頷き、緊張していた表情も少し落ち着いたようだ。しかし今のアルさんの言葉、何か気になるのは気のせいだろうか。
――――授業は一旦解散となり、レインさんとフリージアにまた明日と手を振り別れ俺たちは寮に戻ってきた。そしてルオさんがにこにこしながら出迎えてくれた。
「無事だったようだな」
「いや……終始全部見ていたろうに」
アルさんが怪訝そうな目を向けているが、ルオさんは全く気にしていないようだ。
「アルは過保護すぎ」
と苦笑する。
「その、ルオさんが見せてくれたから。ありがとう」
「かわいい末弟の成長のためだからなぁ」
にこにことルオさんが笑う。あ……でも。
「あの魔物はどうして学園の森に現れたんでしょうか」
ルオさんなら理由を知っていてもおかしくはない。
「アクシデントとはいつの時代も起こるものだ。人間たちが知らないだけで決められた周期で住み処を変える魔物もいる」
それもそうだな。人間が全てを把握している訳じゃない。
「時には何かを求めて。何かから逃れるために。事情は様々だが、人間にも長命の魔族にも察知できることばかりじゃない」
魔族もしかり、か。
「だがしかしロジーの中にその記憶があると言うことは、その周期は長らく封じられていたと言っていい。しかし長い時が流れ、群れをなしたことでかつての姿となった」
「人間や魔族の土地で出くわすのならば討伐しなければならなくなる時も来る。今がその時だったってことだ」
「……アルさん」
「そうそ。それに人間や魔族に脅威だと言う理由で神もその魔物を世界から消し去ることなどできない」
ルオさんの言う通り魔物はどこからか必ず湧き、生態系の中に紛れてくる。
「人類が世界で進化しながら生活を営みを続けるように魔物もそうやって生態や習性を帯び続ける。今年のこの次期、それがたまたま重なっただけだ」
そう、そう言うことは起こり得る。だからこそ冒険者ギルドや各国、民間が語り継ぐ。
「お姫さまは知らなかったようだが……恐らくクォーティアの古い文献を当たればあるはずだ」
クォーティア?俺が垣間見た記憶もクォーティアのものだった?
「無属性魔法しか効かないがその肉が超旨いと言う魔物の話があるはずだ。アルは知らないか?」
「とは言ってもね、ルオ。うーん、クォーティアの……聞いたことはあるけど俺は出会ったことはない。でもそれでロジーの記憶の中にはあったのか」
アルさんも俺の前の前の魂のことを知っている。アルさんはクォーティアに縁がある。そして俺の前前世とも面識があり、クォーティアに関係している人物。
だからこそその周期の魔物を知っていたのだ。そして倒し方も。
「……どのくらい前のことなんですか?」
「多分800年は前……」
800年前……それは人類には果てしなさすぎる時だ。しかし歴史としては残っている。黒魔竜が前に生きた時代。そして俺の前前世の生きた時代だった。
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