第3章:時計の秘密
事故の衝撃から数日が過ぎても、紗也の胸の奥には重苦しい痛みが残っていた。授業中も、友達と笑いながらも、意識の半分は常に陽翔の無事を確認することに向かっている。夢で見た光景、現実の悲劇――その恐怖は、今も胸の奥でうずくまっていた。
ある放課後、紗也は通学路の途中でふと、普段は目に留めなかった小さな時計店の前で足を止めた。古びた木製の扉、窓越しに並ぶ懐中時計や置時計の数々。店の奥には薄暗い光が揺れ、微かな機械音が静寂の中に響く。胸の奥で、不可解な引力に引かれるような感覚を覚えた。
「いらっしゃい」
店の奥から現れた中年の男性が声をかける。白髪、深い知識の光を宿した瞳、静かな微笑み。紗也は思わず立ち止まり、足がすくむ。
「えっと…見ていいですか?」
小さな声で尋ねる紗也に、店主は静かに頷く。店内に足を踏み入れると、古い時計の文字盤や金属の針が光を反射し、微かに光が揺らめく。空気の重み、静寂の中に微かに響く機械音。紗也は息を呑み、まるで別世界に迷い込んだような感覚を覚えた。
「この時計、特別なんですか…?」
手に握りしめている懐中時計を見つめながら、紗也はつぶやく。胸の奥で、夢で見た事故の光景がフラッシュバックする――赤い光、轟音、倒れる陽翔。心臓が痛く、手が冷たくなる。希望かもしれないという直感と、恐怖が入り混じる。
店主は沈黙のまま、静かに紗也を見つめる。その瞳は、すべてを知っているかのようで、紗也は背筋に寒気を覚えた。
「君が手にしているのは、普通の時計ではない」
その声は柔らかいが力強く、胸に直接響いた。紗也は息を呑む。まさか――夢で見た事故を回避できるということか。信じられない、しかし胸の奥に小さな希望の火が灯った。
「でも、そんなこと…本当に…」
声は震え、涙が頬を伝う。胸の奥で湧き上がるのは、ただ一つ――陽翔を失いたくないという想い。手に握る時計の冷たさが、その想いを受け止めているかのようだった。
店主は静かに頷く。「使い方には注意が必要だ。少しの失敗で取り返しのつかないことになる。しかし、君の心が純粋ならば、道は開ける」
紗也の胸の奥で、恐怖と希望が渦巻く。純粋な心――それは、陽翔への想い以外にない。過去の事故の光景、倒れる陽翔の姿、絶望の記憶が一瞬で駆け巡る。しかし同時に、希望の光が胸に差し込む。
「…やってみます」
震える声でつぶやく紗也。店主はにっこり微笑み、うなずく。沈黙の中で、紗也は心の奥で初めて「やれる」という確信を持つ。胸の奥の火は、恐怖よりも強く燃え上がった。
帰り道、紗也の胸は激しく鼓動していた。頭の中で事故の光景が再生されるが、今は違う。希望が、少しだけ未来を照らしていた。
「陽翔…絶対に守る…」
夕日が紗也の背中を暖かく照らす。手の中の時計は微かに震え、針がゆっくりと動いたように感じられる。時間を戻す――その力を手にした瞬間、紗也の胸は恐怖を越え、決意に満たされた。
その夜、紗也は机の上に時計を置き、何度も手に取り針の動きを確かめた。光の揺らめき、微かな振動。それは単なる機械ではなく、紗也の希望と決意を映す鏡のようだった。
紗也は深く息を吸い込み、次に何をすべきか静かに考えた。事故の光景を変えるには、まず最初の一歩を踏み出さなければならない。胸の奥の火が、微かに揺れるけれど、決して消えることはない。未来を変えるための戦いは、もう始まっていた――。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます