冬の朝、紗也は目覚めると、昨夜の夢の残像が胸に重くのしかかっていた。赤い光、轟音、そして陽翔の叫び――その恐怖は現実のように生々しい。布団の中で手が震え、胸が締めつけられる。深呼吸を試みるが、空気が肺に入るたび、胸の奥が痛くなる。

朝食を急ぎ、制服に着替えると、紗也の手は無意識に懐中時計に触れた。冷たい金属の感触が、恐怖と同時に微かな希望を伝える。手のひらで針が微かに震えるのを感じ、心の奥で「これが、何かできるかもしれない」と直感する。

玄関を出ると、冬の冷たい風が頬を刺した。通学路の木々はかすかに揺れ、ざわめく葉の音が耳をくすぐる。普段通る道が、今朝は異様に静かで、紗也の心臓は早鐘のように鳴る。

学校に着くと、陽翔が友達と談笑して歩いていた。笑顔、仕草、声――すべてが紗也にとって眩しく、同時に胸を締めつける。目が合うと、彼女は小さく微笑むしかなかった。

「紗也、具合でも悪いのか？」

突然声をかけられ、心臓が跳ねる。

「え、あ、ううん…大丈夫」

微笑みで返すが、胸は嵐のようだ。夢で見た光景が頭をよぎり、陽翔が今、目の前で危険にさらされることを想像するだけで息が詰まる。

昼休み、教室でノートに目を落とす。何度も廊下を見てしまう。友達と話す陽翔の姿に胸が締めつけられ、指先は無意識に机の縁を握る。呼吸が浅くなり、鼓動が耳に響く。

放課後、二人はいつもの通学路を歩く。夕日が差し込み、街路樹が長い影を落とす。陽翔がふと立ち止まり、紗也に向かって笑った。

「今日は珍しく遅かったな。何かあった？」

紗也は言葉を探しながら、胸の奥が熱くなるのを感じる。手は冷たく、震えながらも懐中時計に触れた。

その瞬間、遠くでタイヤのきしむ音、金属の擦れる音が聞こえる。紗也の体は一瞬で凍った。目の前の光景が赤に染まり、陽翔が道路中央で立ちすくむ。夢で見たあの光景が、現実になったのだ。

「陽翔！」

叫びながらも、足がすくみ、体は動かない。胸の奥が締めつけられ、呼吸が乱れる。涙が頬を伝い、手は懐中時計を握りしめる。

「……紗也、大丈夫か？」

陽翔が驚いた表情で振り向く。彼の目には戸惑いと恐怖が一瞬浮かぶ。紗也は涙に濡れた手で時計を握り、心の奥で叫ぶ。

「これ…この時計…！」

針が微かに震え、光を反射する。その瞬間、希望の感触が胸に広がる。紗也は理解した――これはただの時計ではない、何かできるかもしれない、と。

しかし現実は非情だ。車が迫り、陽翔が倒れかける。世界は歪み、紗也は絶望の淵に立つ。胸が張り裂けそうで、汗が額から滴る。

「やめて！死なないで、お願い！」

叫びながら時計を握ると、光がちらつき、時間の感覚が歪むような感覚が襲う。目の前の景色がぼやけ、意識が揺らぐ――。

そのとき、紗也の胸の奥で決意が生まれる。絶望の中でも、陽翔を守る。絶対に失いたくない。夢が現実になる前に、何とかしなければ――。

風が吹き、通りのゴミが舞う。街灯の光が揺れ、遠くで車の衝撃音がこだまする。紗也は胸の奥で湧き上がる思いを握りしめ、時計に触れたまま目を閉じる。運命を変える戦いは、今、始まったのだ――。

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