ほんの少し違う日本で起こる、業を背負った女性の、葛藤と成長の物語

作者の作品はいくつか読ませて頂き、暴力描写・性描写などは抑制された文学的に必要な要素であることは解っていましたので、気にせず読み始めました。

ドラスティックな表現や展開を極力廃した上での後半の緊張感の盛り上げは巧みで、のめり込んでほぼ一気に読ませて頂きました。

人間ドラマとしても…現実の日本社会にあってもこのような結末になるであろうという納得感・リアリティがありました。

作中の日本は、ある意味現実より厳格な法治国家であり、すでに準備済みのスペアが前倒しで登用されるだけでしょうから。

前編・後編通して、不可思議なことは何も起こっていない。ただ、各々の心の揺れ動きが、各々の姿勢や行動に顕れていくだけ。それでも、事件があり、葛藤があり、対峙があり、解決がある。前編で成し遂げられなかったことを後半で成し遂げた主人公の成長を称えたいと思います。

少しだけ批評めいた点を挙げておくとすると…後半のファクターである『箱』。これは明らかに前半ラストの葛藤部分でも触れておくべきではないかと思いました。同じく密室を介した問応というシチュエーションが、後半だけ怪異的にクローズアップされてしまっており、惜しいと思ってしまいました。

また、前後編の切り替わりで、主人公の成長のために12年を費やしたこと。幼い印象のあった前編時代とは違う明らかな落ち着きは得ているものの、流れた12年という年月が、主人公の行動や言い回し、物腰の変化からは少し感じにくいことがあったのも事実です。

空想の中で進行するもう一つの流れは、更に淡々と語られるも、それ故に無垢な関係性が心を打ちました。二人の巫女にそれぞれの役割を与えたのは、とても感心しました。

アラタと紗良の関係は初期から揺らぐところがなく、ラストの決意は若干カタルシスを感じきれなかったのは、少し残念に思いました。
後半の山場はある意味、紗良にとってもアラタを失いかねない一大事なはずですので、何かしらの葛藤がこの二人にも生じていれば、その解決に向かうラストになっていたかと思います。

総じて、百合というラベリングが不要な、純粋な物語として読むことが出来ました。

皆さんにもおすすめしたいと思います。