―――時は、樵木翔真と安土もねが共闘関係を結んだ直後。


 プレイヤー⑪――材木吾郎の願いがどのようなものだったのか、翔真には分からない。

 彼はどうして戦っていたのだろうか。

 多分、一生分からぬままなのだろう。

 思うところは多い。


 しかし、思い悩んでばかりはいられない。


「それでは樵木さん、また明日」

「安土!」


 校舎裏を去っていこうとする転校生を呼び止める。

 なんですか? と、もね。

 そう、材木吾郎の願いに思いを馳せる前に、翔真には気にするべきことがある。


「……どうやって現実世界に帰るんだ?」

「バカなんですか?」


 冷たい言葉が返ってきた。


「大事なことだろ。説明を読めば書いてあるんだろうが、安土、お前ももう帰るのなら、連れて帰ってくれよ」

「……そうですね。のんびり説明を読んでいる内に別のプレイヤーから攻撃を受けないとも限りませんし。折角、協力者ができたのに、その協力者がその日の内に脱落なんて、笑い話にもなりません」


 酷い言い様だったが、一人で帰れ、とは言わなかった。

 出口に向かう道中、もねはこの世界について説明してくれた。


 曰く、このドット世界は『ゲーム』専用の空間らしい。

 正式な名称は『隠しステージ』だという。

 現実と地続きながら、違う空間。隠された世界。

 そこでは、プレイヤーが『スキル』と呼ばれる特殊能力を使えるようになる……。


「『ステージ』への扉は毎週、月曜、水曜、金曜、日曜の午後六時と午前零時に開きます。時間は一分間。午後六時ならば、午後六時ちょうどから午後六時零分五十九秒です。『ステージ』自体も三十分間しか開いていません。午後六時半か、午後零時半になれば、強制的に排出されます。自分の意思で出る場合は時間を気にする必要はありません。『ステージ』内の所定のポイントに出口があるので、そこから出られます。何箇所かありますよ」


 話を聞いている間に、その所定のポイントに辿り着いた。

 昇降口だ。その階段の前に半透明な開き戸が存在していた。出口らしい。

 右腕を使えぬもねは、不便そうに左手でドアノブを捻る。

 戸には色というものがなく、手を伸ばしてもすり抜けてしまうんじゃないかと思うような透明さだったが、問題なくドアは開いた。もねの後に続いて通る。


 視界が暗転する。

 ああそうか、ゲーセンに入った瞬間に立ち眩みがしたが、あの時、俺は『ステージ』に転送されていたのか。

 思考が終わるより早く、翔真は現実世界に戻ってきていた。


「……帰れた」


 景色は馴染みのあるものに変わっていた。

 背後には通い慣れたゲームセンター。目の前には人のいない小さな公園。その周囲は一戸建てとマンションが並ぶ。飽きるほどに見た風景だ。


「それでは樵木さん、改めて、また明日」

「ありがとな、安土」


 右の手首を摩りながら、すたすたと歩いていくもね。

 強がっていたが、やはり痛いらしい。このまま病院に向かうのだろう。


 質問したいことは山のようにあったが仕方ない。

 試しに視界の右上を手で払ってみる。当然のようにメニューは出てこなかった。落ち着いたところで説明を読み込みたかったが、次の機会にしよう。


 グレージュの髪が見えなくなった頃、翔真は首を捻る。


「……ん? ?」


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