第9話 ドラゴンスレイヤー


「はあっ!!」

 ギャリンッッ!!

「うわっ!?ちょっ、待ってマジ?」


 月影がイクリプスの首元に斬りつけるが、硬い龍の身体に傷を付けられなかった

 着ていたシャツが切り裂かれ、虹色の火花が散る


 龍の身体を傷付けられないのは、セレロンの様に物理的に外皮が硬い場合と、クレセントの様に常時薄い魔法障壁に護られる場合が在るが、イクリプスは後者だった


「ふん …… 魔法障壁ですか、ならば障壁ごと押し斬るまで!!」

 月影は刀を鞘に戻し、居合い抜きの構えを取る

「ふうううぅぅーーーーーっ!」

 呼吸を整え、必殺の間合いを詰めようとジリッとにじり寄る月影


「えっ、止めようよ?マジじゃん!」

「ミカエラ母様の名に泥を塗る様な生き様は、例え神がお許しに為ろうとも、私が許しません!お覚悟っ!」


「お母さん、助けて!?」

「覚悟を決めなイクス♪男なら首の一つくらいくれてやんな」

「そんな無責任な?」

 ミカエラの後ろに隠れたイクリプスの襟首を捕まえて前へ差し出すミカエラはいつの間にか一升瓶と枡酒片手に笑っていた


「御兄様を斬れば、私も龍殺しドラゴンスレイヤーですね、十文字一徹にも箔が付きます」


「そんな事の為に死にたく無いよっ?」


「そんな事とは失礼な!月影はいつだって真剣で御座います!!」

 イクリプスも自分が不老不死である事を忘れている


 走り回るイクリプスを月影が追っかけて居たが、イクリプスは空へと飛んで逃げる事にした

「あーーーーっ!卑怯者っ!!コラーッ!降りて来なさい!首置いてけ!!」


 月影は勿論、空など飛べない


「ゴメンね月影ちゃん、流石に斬られるのは嫌だよ」

「男らしく無えなぁ … 」

 ミカエラが人差し指を立てて、スイッと下へ動かすと、空中のイクリプスが地面に墜落する

 ドベッ!「ぐえっ?」

「母上、有難う御座います!」


 走り寄った月影がピヨったイクリプスの首を刎ねた


 シュリンッ!ぽーーんゴロゴロ …


「えっ!!?」

 月影は見事に魔法障壁ごとイクリプスの首を斬り落として見せた


「おっ、やるじゃん♡」

 月影の剣を褒めながら、足元に転がって来たイクリプスの頭を踏んづけて止めるミカエラ


「お母さん?踏まないで?」

「情けねえ声を出してんじゃ無えよ、長男の癖に」

 ミカエラには8人の子供と1人の孫が居るが、男の子はイクリプスだけだった


 月影はミカエラからイクリプスの首を受け取ると、風呂敷に包んで正座した

「どうすんだい?」


「不義討ちとは言え、身内の首を刎ねたのです。月影も腹を切りクレセント様にお詫び致します」


「おいおい」

 月影はなんの躊躇いも無く着物の前を開けると、ミカエラの枡酒を一口含むと、抜いた小刀の刀身に吹き掛けた

 言うまでもないが、彼女は本気である


 ミカエラは特に止めるでも無く、冷めた目で月影を見る

「何か言い遺す事は有る?」


「辞世の句ですか …… では、濁りなき 同じ流れの 末なれば 結ぶ手向たむけくれないに染む」


「安心しな、介錯はアタシがしてやる」


「勿体無う御座います」

 ミカエラは左足を引いて月影の横に立つと、卍丸に魔力を流し黒刀に変え構える


 イクリプスは風呂敷に包まれ何も見えないが、言葉のやり取りから目の前で月影が切腹しようとしているのは理解出来た

 ( ええーーーーっ!?何がどうしてこうなってるの?月影ちゃん、何故切腹するの?て言うかミカエラ母さん、介錯するって本気じゃ無いよね? )

 事、ここに及んでも事態を直視出来ないのは彼の甘さ故だが、苛烈な月影の性格とは相容れない様だ


 と、そこへ月影のもう1人の母親である咲耶が転移して現れる

「ミカエラ、私が代わります」

「あら、さてはずっと見てたわね?」


「例えどんなに離れて居ても、月影と貴女の事は分かりますから」


 ( えっ!?咲耶さん、月影ちゃん自分の子を斬るの?何故? )


 クレセントに甘やかされて育ったイクリプスには、この脳筋親子の会話が理解出来ない

 


 

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