第7話 唐変木


 イクリプスが意識を取り戻すと、何故かライゼンに膝枕されて居た

 何がどうなっているのか考えると、そう言えばライゼンにビンタされたのだと思い出す


「ねえっ、良い加減目を覚ましなさいよ!怪我だってとっくに治ってるのに、どうして起きないの?」

 ライゼンは泣いていて、イクリプスが薄っすらと眼を開けているのに気付いていない


「ねえ、お願いだから目を覚ましなさいよ … ちょっとビンタしただけで死んだりしないよね?大体、イクスだってドラゴンの端くれなんだから死んだら承知しないわよ …… 」

 ライゼンはイクリプスの頭を抱き抱え、大粒の涙を流した


 ( え …… 自分でやっておいて泣いてるの? )


 ボロボロと止め処無く涙が落ちて来る

 ( 昔から自分勝手な奴だけど、僕の事を本気で心配してくれてるの … かな? )

 いきなりで不意打ちを喰らったけど、ライゼンのビンタなら避けようと思えば避けられる気がする

 思えば幼い頃から何百回ビンタされたか分からない


 ( 泣くくらいなら最初から暴力を振るわなければ良いのに …… あ、今回は僕が迂闊だったのか? )

 ギュッと抱き締められて、ライゼンの柔らかな胸がイクリプスの顔に当たる

 母親クレセントと違う甘い匂いがして、何だか気恥ずかしく為ったイクリプスは眼を開けて声を掛けた


「ライゼン、泣かないで?」

 顔が近かった為に、耳元で囁く形に為ってしまう


 耳元で囁かれてライゼンはガバっと跳ね起きると、イクリプスと目が合う

「 …… 良かった、気が付いたのね!?」

「ライゼン、君 …… 僕の為に泣いてたの?」


 慌ててイクリプスを放り出し、距離を取るライゼンは目だけで無く耳まで真っ赤にしながらイクリプスの言葉を否定する

「そっ、そんな訳無いでしょ!?ただ、私がビンタしたせいだから、ちょっと …… そう、ちょっとだけ心配になっただけよ!勘違いしないでよね?このマザコン!!」

 ( …… マザコンて、僕じゃ無くてお母さんの方が子離れして無いと思うけど? )

 ちょっと何かが違う気もしたが、取り敢えず心配してくれたのだからと、お礼を言う


「ありがとう」


 ライゼンはボンッ!と真っ赤に為ると転移して消える

「あ、行っちゃった … まいったな、今度ちゃんと謝ろう」

 中途半端にしておくと、後でどんな仕打ちをされるか分かった物では無い


 それから暫くの間、イクリプスは火口からフェニックスが飛び立つのをじっと待った


 しかし、夜を明かしてもフェニックスは現れ無かった

 朝日が顔を出して、漸くもしかしたらライゼンがフェニックスを捕まえてくれたのかも知れないと思い至ったイクリプスは、聖都目指して大空へ飛び立った


 大気圏を抜け、星が丸く見える様を見ながら今回の顛末を振り返るが、どうしても自分の落ち度が分からない

 ( ライゼンもちょっと肘が触ったくらいで、あんなに怒るかな?まあ、あの子が生意気で怒りっぽいのは昔からだけど … 酷くない? )

 イクリプスは龍の姿に為らなくとも自由に空を翔べる

 今も人型のまま、胡座をかき腕組みをして、考えるポーズで大気圏再突入していた

 余りにも幼い頃からの腐れ縁で、乙女として成長したライゼンの気持ちを考えられる程、イクリプスも男として成長出来ていない


 だから未だにマザコン呼ばわりされるのだが、実際の処、クレセント母親が子離れしないので仕方無い


 聖都のミカエラ邸に着陸したイクリプスを、クレセントが中から飛び出して抱き締める

「イクスッ!!ああ、イクス!どうしてたの?何処も怪我とかして無い?ママ心配したのよ!?」


「ごめんなさい、お母さん。ミカエラ母さんは?」


「ミカエラなら月影ちゃんと練兵場に居るわよ」

「挨拶して来る」


 イクリプスはへばり付くクレセントを振りほどき、フェニックスを手に入れられ無かった事を詫びようと練兵場へ向かった

 

 

 

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