第13話「仕様がないイベント」

 さて、現状をどう認識するべきか。


「アキラ、さん?」


 単純に俺がボケっとしてたことが原因で道を間違ったとかなら話は早かったんだけども。


「ひとまずクリスタルが設置されている。あそこで一息つこうか」

「あ、そういうことでしたか。お気遣いありがとうございます」


 残念ながらそう簡単に謝って終わりにはしてくれないらしい。


 ダンジョンでは俺たち開発陣が妙なところでユーザーホスピタリティを気取って、ボス戦やイベント発生前にはステータス調整や回復を可能にすべくクリスタルが設置されている。


 が、ハイゼル大森林にはボスが設定しておらずまたダンジョンとしても設定されていない。

 にもかかわらず、こんなところでぽつんと意味ありげにクリスタルを設置されていたら流石にわかるわけで。


「レベルは……31、か」


 我ながらただのゲームキャラ相手にステータス調整してるフリして何を誤魔化しているのやら。


 まぁ、いい。恥ずかしいものは恥ずかしいのだらか仕方ない。

 ともあれここは俺が知っているハイゼル大森林ではないということだ。

 道順を間違えたとかそういうのはどうでもいい、まず間違いなくこの先にはセーブを促される何かが配置されている。


「あるいはイベント? ……この辺りの改変が未来ちゃんだけであるのなら、そっちのほうが濃厚か」


 ぱっと見る限りグラフィックに関して異常はない。

 つまりグラフィック、イラスト担当だったあの人が何かしたセンは薄いだろう、ならばシナリオの進行上避けては通れないイベントがあるわけだ。


「俺が踏んで良いイベントなのか。それが問題だ」


 最悪のパターンとして考えられるのは、そもそもリュールと誰かがハイゼル大森林に侵入するという状態をトリガーに、ハイゼル大森林に似た別のマップに飛ばされている可能性がある。


 その後にシナリオ通常進行されちゃ目も当てられないし、どうしたものか。


「休まれないの、ですか?」

「え? あ、あぁ。そう、だな。少し俺も休もうか」


 一旦冷静になるためにも、促されるままに地面へと座ってみればリュールが小さく微笑んだ。


「ありがとうございます」

「急にどうした?」

「いえ、おかげさまでフィオーネは目前。あの洞窟で助けていただいたこと含めて、お礼を述べたくなったのです」


 ……ほんとさ。


「どんな改変を仕込んだのやら」

「はい?」

「いや、お礼を言われるようなことじゃないってな。それどころかキミを連れたのはついでというか、俺にとって都合が良いからだからね」

「たとえその言葉がそのまま真実だとしても、ですよ」


 ここまでキャラ変が著しいとほんとにフォルトゥリアのリュールなのかとすら思ってしまう。


 何を思ってリュールというキャラクターの性格をこう改変したのかまではわからない。

 わからないだけにここからどう転んで行くのかがさっぱり予想付かないのが困るよ。


「なら、素直にどういたしましてと言っておこうか」

「はい。受け取ってください、あなたは不愛想で決して優しいとは言えない方ですが感謝を捧げるべき相手ですし、私の素直な気持ちです」

「そっか」


 一言以上に余計だよ、なんてツッコムのはなぁ、ぐぬぬ。


 確かにリュールというキャラクターは条件を満たせば主人公パーティに加入する存在だ。

 そういう意味ではNPC以上メインキャラクター未満と言える、ある種特別なキャラクターと言えるかもしれない。


 言えるかもしれないが、俗に言う負けヒロインでもある。

 主人公一行にはちゃんとヒロイン属性を持つキャラクターが居て、結ばれるためのイベントがあるがリュールには存在しない。それどころか主人公を諦めるというイベントがあるくらいだ。


 あー、ほんとこういう知識に無い動きをされると困るよね。

 どういう会話が待ってるのか知らないから、何を言えばイベントから逸れることができるのかわからなく――うん? イベント?


「――私には、夢があります」

「……あ゛?」


 待て待て待て! ちょっと待て! うわクッソやられたも良いところじゃねぇか!!


「フィオーネ、ハイゼル大森林の外を経験したことでその夢はなおさら強く、実現したいと決意するものとなりました」


 クリスタルを使用することを鍵として発生するタイプのイベントじゃねぇか!? これ!!


 しかもよりによって発生したのはリュールの『私には夢がある』じゃねぇの!? リュール加入連続イベントのラストだぞ!?


「そう、決意したのです。故に」

「ま、待とうか王女。時に落ち着け王女」

「……私は落ち着いております」


 いかーん! とても危険があぶなーい!


 そんなマジな顔するんじゃない! 俺は嫌だぞ! 主人公にはならん!

 俺! デバッガーですから! 嫌っていうかダメ絶対!


「どうか、エルフの国再興の為力をお貸しください、アキラ様」


 ……あーあー。


 そうか、そういう事かよ未来ちゃん。

 俺を主人公に仕立て上げようとしているわけね? なんで??


「お返事を急ぐつもりは……申し訳ありません、ないと言いたいのですが。どうかお聞かせ下さい、今、この場で」


 落ち着こう、冷静になろう俺。


 考えるまでもなく答えはノーだ。

 ここでイエスと言えば、フィオーネで囲われる。

 デバッグの旅になんて出られないし、それどころかそれこそエルフの国を再興するまで自由な時間はなくなるだろう。


 だが、どうする?

 これは確実に未来ちゃんが用意したシナリオだ。

 俺の知る私には夢があるイベントと同じ結末を辿るとは断言できない。

 それどころかここでノーを突きつけることでフィオーネに入る事が出来なくなって、修正作業が出来なくなる可能性すらある。


「アキラ、様。どうか、お答えを」

「……」


 ……さぁ、どうする? 俺の仕事は、どうすれば完遂できる?

 逃がすつもりはないとリュールは言っている。これはイベントだ、何らかの不思議パワーが仕込まれていておかしくない。


「わかった。俺の答えを、言おう」

「っ……はい」


 ならば、腹を括ろう。


 俺の、答えは――。

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