第3話 夢の骨
夢は毎晩、すこしずつ違うかたちで訪れた
最初のそれは、ひとつの静かな情景だった。
けれど日を追うごとに、夢の中の密度は変わっていった。
最初は静謐だった。
次第に、音の数が増えていった。虫の羽音、布の擦れる音、わずかな呼吸音。
空間に意味を持たない“何か”が増えていく感覚。景色は同じなのに、質量だけが増えていく。
夜毎、夢は同じ場所から始まり、同じ場面にたどり着く。
白布に包まれたものを囲み、沈黙する人々。
その中央で、女が指を動かしている。
繰り返される所作。だが、今は少し違う。
指の動きは、次第に早く、複雑になっていた。
それは言葉ではなかった。
理解できないのに、どこかで知っている。
まるで、忘れたことすら忘れた何かを、夢が思い出しているようだった。
•
現実の九条は、少しずつ異変に気づき始めていた。
睡眠は浅く、起床後の疲労感は日ごとに増していた。
軽度の頭痛。耳鳴り。集中力の低下。
血圧や体温、血液検査の結果は正常の範囲内。だが、明らかに“正常”ではなかった。
同僚との会話が噛み合わない瞬間が増えた。
話しかけられても返事をせず、返した言葉が適切でないことに、自分でも後になって気づく。
一週間が経った頃、九条は夢の中で、初めて「骨」の存在に気づいた。
白く細い指が布の結び目を解いた。
それは、脊椎のような形をしていた。
けれど、それは人の骨ではなかった。
どこか昆虫のようで、どこか魚類のようで、どこか植物の根に似ていた。
それが布の上に置かれると、人々は静かにうなずき、いっせいに背を向けた。
彼女だけが残っていた。骨に触れ、なにかを口ずさんでいた。
その瞬間、九条は目を覚ました。
彼は、自分が起きているのか、まだ夢の中にいるのか、判別できなかった。
部屋は静かだった。時計の秒針の音だけが、現実の証だった。
手元のノートには、震えた文字でこう書かれていた。
《何を見せられている?》
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