第20話 言葉

 王から、

 直接言われた。


「国民へ、

 声を届けてほしい」


 一言で構わない、と。


 ……断れるわけがない。


 断る理由も、

 言い方も、

 思いつかなかった。


「……わかりました」


 自分でも驚くくらい、

 すんなり言葉が出た。


 やってみます、

 と。


 そのあと、

 何を話すかは

 ちゃんと考える時間をもらった。


 真面目に。


 適当なことは、

 言えないから。


 ◇


 当日。


 高いところだった。


 王城の一部、

 外に面した場所。


 厚いカーテンが、

 ゆっくりと引かれる。


 ……下。


 人。


 人、人、人。


 いっぱい。


 思っていたより、

 ずっと多い。


 ざわめきが、

 波みたいに広がっている。


 足が、

 少し震えた。


 逃げたい、

 とは思わなかった。


 ただ、

 緊張した。


「……」


 深呼吸。


 考えてきたことを、

 思い出す。


 戦え、とは言わない。


 勝て、とも言わない。


 そんなこと、

 分からないし、

 言う資格もない。


 だから。


「……えっと」


 声が、

 ちゃんと響いた。


 思ったより、

 静かになった。


「ボクは、

 皆さんに

 戦え、とか」


 一瞬、

 言葉を探す。


「そういうことは、

 言いません」


 変な誤解も、

 今回は起きなかった。


 誰も、

 ざわつかない。


 ただ、

 聞いている。


「王城で、

 いろんな文化に

 触れました」


「本とか、

 服とか、

 食べ物とか」


「……すごく、

 大事にされてきた

 ものなんだなって

 思いました」


 言葉は、

 上手じゃない。


 でも、

 嘘はない。


「なくなってほしく

 ないなって、

 思いました」


「だから」


 少し、

 間を置く。


「自分を

 第一にして

 ください」


「家族を

 第一にして

 ください」


「それが、

 続くことが

 一番だと

 思います」


 完璧じゃない。


 立派でもない。


 でも。


 変な勘違いは、

 起きなかった。


 拍手も、

 歓声もない。


 ただ、

 静かに

 受け取られている。


 それが、

 分かった。


 ◇


 話し終わって、

 気が抜けた。


 ……その瞬間。


 ふわっと、

 身体が軽くなる。


 足元が、

 少し遠い。


「あ」


 気づいたときには、

 もう。


 王城から、

 離れ始めていた。


 慌てる。


 これは、

 さすがに

 まずい。


「……っ」


 体を戻そうとして、

 空を切る。


 その間。


 下から、

 どよめき。


 でも、

 悲鳴じゃない。


 不安じゃない。


 むしろ、

 安堵。


「……」


 頭の上が、

 少し、

 重い。


 輪。


 光が、

 強い。


 大きい。


 慌てて、

 戻る。


 意識して、

 王城の縁へ。


 戻れた。


 ちゃんと、

 戻れた。


 息を吐く。


 下を見ると。


 人々が、

 空を見上げていた。


 そして。


 ……笑っている。


 安心した顔で。


「天使様が

 見守って

 くださっている」


 そんな声が、

 どこかで聞こえた。


 ……違う。


 見守るつもり

 なんてなかった。


 ただ、

 戻れなくなりかけただけ。


 でも。


 今は、

 否定しなかった。


 ◇


 カーテンが、

 再び閉じられる。


 王が、

 こちらを見る。


 何も言わない。


 ただ、

 静かに頷いた。


 ボクは、

 その場で

 深く息を吸って。


 ……疲れた。


 でも。


 逃げなかった。


 それだけで、

 今日は

 十分だと思った。


 こうして、

 一日は終わる。


 王城での生活は、

 まだ続く。


 でも。


 もう、

 戻れないところまで

 来てしまったのも

 確かだった。


 ────――天使界隈(マジ)──────

 第2章 終了

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