第12話 雨上がりの空と、新たな名前

「……怨念反応、消失」

 彼女は呟き、そっと自分の頭に手を当てる。彼女の頭上で、あの“CD”――メモリアの回転が止まっていく。

「じゃあ、これで」

「現象、収束を確認。豪雨は……止まります」

「全部救えた?」

「はい。あなたの言う“ハッピーエンド”に、限りなく近い結果です」

 一拍、間を置いて。

「……理解は、まだできていませんが」

「……よし」

 声が、思ったよりも震えていた。喜びなのか、安堵なのか、自分でも分からなかった。自然と拳に力が入り、ガッツポーズを取る。

「やったな」

 彼女は頭上のメモリアを懐にしまったあと、俺の手元を見る。空になったパンの袋を。言葉を探すように、少しだけ視線を伏せてから続けた。

「……演算不能な結果を、導くこともあると」

 そう言って、彼女はほんの一瞬、言葉を探すように口を閉じた。

「私の結論に……書き加えておきます」

 俺は苦笑した。


「だろ? エラーも、たまには役に立つ」

 その時、遠くからサイレンの音が聞こえてきた。避難誘導の声、人のざわめき。街は、まだ生きている。

「……おばあちゃん」
 

 胸の奥で、名前を呼ぶ。

「お前はどうするんだ、これから」

「……私は、未だ未定です。ただ、この街は離れないといけませんが」

 理由は聞かなかった。代わりに、俺は一歩、彼女の隣に立った。

「……一人で帰る気が、しなくなった」

 彼女の、青空のような瞳が、揺れる。

「俺と一緒に行かないか?」

 少しの沈黙を挟み、彼女は目を逸らしながら言った。

「私に、何かメリットが?」

「俺がお前の知らなかったことを教えてやる。それに」

「まだいるんだろ?怨念が他にもたくさん」

 彼女はただ黙って、こくりと頷く。

「俺が怨念全員の解放を手伝おう。それならどうだ?」

「……あなたについていくという案を承認します」

「よし、なら、よろしくな……えっと、あ」

 ここで、大事なことに気がつく。

「そういえば、名前聞いてなかったな」

「私に名前はありません。基本的に“A-08”そう呼ばれています。よろしければ呼びやすい名称をつけてください」

 急にそんなことを言われても咄嗟には出てこない。しばらく考えて、絞り出すように名前を言う。

「……アオハ」

 雨上がりの空を見上げて、そう言った。さっきまで泣いていたみたいな青だ。

「アオハなんて、どうだ?」

「安直ですね」

「いいだろ!まあとにかく」

 改めて向き直り握手を交わす。

「俺はタツキ、改めてよろしく、アオハ」

「こちらこそ、よろしくお願いします。タツキ」

 握手を交わして、俺たちは町へと向かう。太陽は、これから向かう先を選ばず、ただ俺たちを照らしていた。

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