第26話 VS全滅エンド 1回目
◇◇◇◇
TIPS 原作BBB・第二部・情報
対ダンジョン防衛都市シン・トーキョー。
太陽の獣により2038年11月26日に壊滅。
魔女会は太陽の獣に敗北。第一部を生き残った魔女は全員死亡
以上が原作BBB第二部のオープニングである
◇◇◇◇
山味はベッドサイドにケースと共に指輪を置く。
カグヤヒメ作戦前に、あの指輪は自室に置いてきたはずだ。
理由は、よく覚えていない。
「……これ、俺の偽装指輪だよな。なんで、山味がつけてんだ?」
「ふふ、アンタと結婚したかったから、それで信じてくれる?」
「アホ言うな。お前みたいに男にも女にもモテる奴が俺なんか相手にするかよ」
「これは残念。本当に口説きたい相手にはいつも振られるもんだから、困るね」
片目を瞑り、ぺろりと舌を出して笑う山味。
普通の人間がすれば気障すぎてぶん殴りたくなる仕草だが、ここまで顔が整ってると絵になっている。
「……お前、俺の指輪つけて何がしたかったんだ。お前がその指輪つけてたせいで、うちの魔法少女達、すげえ目でお前を見てたぞ」
「ははは、これは参ったな。あの子達がやきもち焼いてるのが可愛くて――」
「
煙に巻かれたような会話を続けるのは好きじゃない。
俺の意思が伝わったのか、山味がため息をつく。
「……資料には目を通しているね? 君が月を堕とした後の彼女達がどうなったかも、含めて」
「お前が屋上でみせてくれた資料と、魔法少女達が持ってきてくれた資料、だいたい頭に入れている」
ベッドサイドには、情報端末や本が積まれている。
夜行さん達が持ってきてくれた外の世界。
魔法少女達が魔女となり、新しい超人――探索者と共に魔獣にあらがう世界の情報だ。
「それは良かった。あんたは昔から……勉強が得意だったね。でもあんたが知ってるのは言ってしまえば歴史の話だ。本能寺の変で織田信長が死んだ事は皆、知っていても、信長が最後どんな気持ちで死んだのかは分からないだろ?」
「なんの話してんだ、お前」
「ふふ、ごめん、今のはちょっとわたしの話が下手だった――すまない、吸ってもいいかい?」
山味が喘息用の吸入器をかちゃかちゃと振る。
断る理由もないのでもちろん頷く。
「カグヤヒメ作戦後の魔法少女達、特に君の担当の子達、それに一度でも君が補佐になった魔法少女達の心は本当に不安定になっていてね。ヒドイものだったんだ」
山味が、俺が目覚めるまでの事を語り始める。
管理委員会を打倒し、対ダンジョン防衛都市シン・トーキョーの設立が終わった頃から魔法少女達に異変が起き始めたらしい。
曰く、時間が出来てしまったと。
時間と余裕が生まれた事により、これまで無理やり忘れていた現実に魔法少女達は直視した。
即ち、あの最終作戦の事だ。
「心を病んだ彼女達は自分の心を守る為だろうか。幻覚にずっと謝り続ける子や、ぬいぐるみを君に見立ててお世話をする子、無謀とも思えるダンジョンダイブ《攻略》を繰り返す子。だけど特に厄介なのが……その……」
山味は言いにくそうに口を噤んだ後――。
「魔女のほぼ全てが……君と結婚していたという妄想を語り出した。婚約の子もいれば、既に式を挙げていたとか籍を入れていたとかね。……あの子達の中での、流行り、だったのかもしれない」
最悪の状況すぎるだろ。
だけど……あながちありえなくもねえな。
最終作戦前に管理委員会が魔法少女達に用意していた”報酬”。
報酬を俺にするとかいう世迷言も、一斉に全員が言い出していた。
「それもあって死別した未亡人気どりの処女――失礼、魔女達は思い詰めてどうにもならなかったので。もう荒療治しかなかったんだ。幻覚ではなく、現実を直視せざるを得なくなるようにってね」
「荒療治?」
山味が、そっとベッドサイドにある指輪を再び手に取る。
指輪をつまみ、また自分の左手薬指にはめた。
「現実を見ろ、桃無楽人の配偶者はこのわたしだ、とね」
山味が、にィとニヒルな笑みを浮かべた。
マジすか、山味さん。
「効果はてきめん。やはり、人間、生きるには悲しみよりも怒りを友にすべきだね。わたしへの敵意と怒りで、一気に魔女達は正気を取り戻した。いやあ、我ながら無茶をしたものだねえ、流石に死ぬかと思ったよ」
「お前……よく生きてたな」
「あいにくわたしも、魔力に覚醒してね。これでも、ちょっと強いんだ」
pipipippi。
山味のスマホ、探索者端末が音を鳴らす。
『西暦2038年11月26日、夕刻です。鐘守りに召集されています』
電子音声だ。何かのスケジュールを知らせるような。
「おっと、もうこんな時間か、今日はわたしが鐘守りでね。そろそろ行かないと」
鐘守り。
《誘蛾灯システム"魔女の鐘"》
シン・トーキョーの心臓であり、人類最後にして最前の防衛線の要たるその鐘を守る当番のようなものらしい。
曰く、魔獣をはらむダンジョンが発生した場合、最初に狙われるのは魔女の鐘。
都市最強戦力である”魔女”と探索者ランク一桁台の猛者が毎晩、その任につくらしい。
俺の元同僚、山味サクは、やはりすごい奴だ。
魔力覚醒を果たし、護られるばかりだった魔法少女……いや、魔女達と肩を並べてるのだから。
――……やましいな。
それに比べて、俺は――。
「さて、親友、僕はそろそろ行くよ。今日の鐘守りの相棒は気難しくてね。遅刻を許してくれないだろうし」
「ああ、悪い、相手させちまったな」
山味は気にするなよと微笑む。
ふと、何かを思い出したように呟く。
「今日は一か月に1回の鐘鳴らしの夜でね。夜遠し鐘の音が街に響く、良い音色だよ、聞いていくといい。そうだ、ここに専用ダイヤルの電話を置いていくよ。何かあればこれを使っておくれ」
コトリ。
山味が昔から懐かしいPHS型の電話を置いていく。
そして笑いながら病室を出ようとして。
「山味」
「なんだい?」
扉から出ようとする山味が背中を向けたまま、ぴたりと止まる。
「本当に、ありがとう。世話かけて申し訳ない」
「――ははっ」
振り返った山味は、深く笑っていた。
黒い瞳、とぐろを巻いてぐるぐるになった目が俺を見ている。
「――ああ、やはり、あんたは……イイね」
つかつかと歩んでくる山味。
どさくさでつけたままにしている指輪を外し、それを――俺の左手薬指に着けた。
「これは、君に返しておく。君にはまだ多くのやるべき事があるだろうからね」
山味が、俺の耳にそっと囁く。
吐息を感じるほどの距離――甘いようなひんやりとするような不思議な良い香りが鼻に届く。
「でも、君が全てを、為すべき事を為した後は、そうだね、これを渡す相手をよく考えていくべきだ」
山味の細い指がそっと俺の薬指を伝う。
「願わくば――わたしを選んでくれると、嬉しいかな」
そう言って、山味は病室を出ていく。
部屋には、山味の残り香がうっすらと。
「冗談だよな?」
ぴんぽん。
チャイム、扉がまた開き、山味がひょっこりと顔だけ覗かせて。
「はは、どう思う? 君は、どっちが良いんだい? 親友」
◇◇◇◇
~西暦2038年11月26日、シントーキョー心臓部――魔女の鐘、鐘楼にて~
街を見下ろせる巨大な塔。
ガラス張りの一室、ソファが2つだけの簡素な広い部屋。
今夜の鐘守りが待機する部屋だ。
人類守護の為に感覚を研ぎ澄ませ、迫る脅威に備える英雄の仕事場。
今夜はことさらに安心だ。
考えうる限り、最強の戦力がそろっているのだから。
「やあ、夜行ユキ。今日の鐘守りよろしくね」
「山味サク……ええ、こちらこそ」
盤石、だろう。
世界は今日も魔女と探索者によって守られている。
今夜も、鐘が鳴り響く。
その鐘が鳴り続ける限りは、人類はきっと繁栄し続ける事だろう。
◇◇◇◇
ごおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおん、
ごおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおん。
鐘の音が聞こえる。
今頃、山味や魔法少女――魔女が夜を通して世界を守っているのだろう。
勝てねえな。あいつらには。
皆、凄えよ。
「俺だけ、ほんっとしょうもねえ」
俺は、山味が置いていったダンベルを手に取る
……いじけてる場合はじゃねえ。
BBBのストーリーは月の獣を斃した事で完結している
太陽の獣って奴は初耳だ。そんな魔獣BBBには存在しない。
ここからは新しい未来だ。
俺も自分に出来る事をしないと。
鍛えるか……。
しばらくムンチョの話相手をしたり、腕だけで出来る筋トレを行い続ける。
「ムンチョと契約すれば全部丸く収まるムンよ~お前も、皆と一緒に戦えるむん」
「お前な、なんで俺が戦うんだよ」
「むん? あれ、お前……自分で気付いてないむん?」
何言ってんだ、コイツ、みたいな顔でムンチョが首を傾げる。
なんで、お前がそんな顔出来るんだよ。
その時だった。
身体に、ぞくりと寒気を感じる。
これは――まさか。
……ちょっとトイレに行きたい、か?
え、嘘、今? このタイミングで??
下半身の感覚がないくせに、脳や上半身の細胞が叫んでいる気がする。
お前、出るぞ。と。
嘘だろ、え、どうする?
そろそろ今日の当番の魔法少女が来る……だが、しかし。
「うわ」
病室に置かれているのは――徐々に増えつつある各魔法少女のマイ瓶。
おい、ほんといかれてるだろ、この光景。
少しだけトイレが遠くなった気がする。
「moon? 契約するむん? おトイレも自分で行けるむん」
「しねえって」
「むーん」
ムンチョはいじけたのか、ベッドに丸まって尻を向けて寝始めた。
こいつ、すっかりなじみやがって……。
気晴らしにムンチョでも撫でるかと思い立ち……ふと、気付いた。
さっきから鐘の音が止まってないか?
そこから数十分ほどが経つ。
鐘は止まったまま。
妙に、周囲が静かだ。
「おかしいむんねえ……」
「どうした、ムンチョ」
「カラスが全然いないムン。あいつら夜になると街から自分のおうちに帰るからいつもはこの時間、すっごくうるさいのに……」
「……ムンチョ、窓の外を確認してくれ。何か変わった事はないか?」
「むーん、妖精端末使いが荒いmoonねえ……」
文句を言いながらも、ムンチョが窓の方へ飛ぼうとして――。
ウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううう
「むーん!! なんの音むん!?」
爆音。
人間の本能に呼びかける不快な音が鳴り響く。
本能と担当官としての経験で理解する。
これは――非常警報だ。
『警報が発令されました』
『鐘守りの生体反応消失』
『これを受け、シン・トーキョー全戦力に第一種戦闘配置が命じられます』
『周辺の魔女、探索者は速やかに戦闘準備を整え、各エリアに集散せよ』
『生産部門、商業部門の民間人は速やかに地下シェルターへ避難せよ』
――あ?
この館内放送なんて言っ――。
「!」
ムンチョが急に、全身の毛を逆立たせた。
「ムンチョ?」
「……がるるるるるるるる、ふしゃァァァァアア!」
病室の扉に向けてムンチョが吠えて――。
ピンポーン。
「え?」
ぴんぽんぴんぽんぴんぽんぴんぽんぴんぽんぴんぽんぴんぽん
ぴんぽんぴんぽんぴんぽんぴんぽんぴんぽんぴんぽんぴんぽん
ぴんぽんぴんぽんぴんぽんぴんぽんぴんぽんぴんぽんぴんぽん
ぴんぽんぴんぽんぴんぽんぴんぽんぴんぽんぴんぽんぴんぽん
ぴんぽんぴんぽんぴんぽんぴんぽんぴんぽんぴんぽんぴんぽん
ぴんぽんぴんぽんぴんぽんぴんぽんぴんぽんぴんぽんぴんぽん
ぴんぽんぴんぽんぴんぽんぴんぽんぴんぽんぴんぽんぴんぽん
ぴんぽんぴんぽんぴんぽんぴんぽんぴんぽんぴんぽんぴんぽん
ぴんぽんぴんぽんぴんぽんぴんぽんぴんぽんぴんぽんぴんぽん
「お前、お前」
ムンチョが俺の首をぷるぷると横に振る。
「扉、開いちゃダメむん」
扉が開いた。
「……開いた」
「moon……向こうから開かれると、無理moonねえ……」
ムンチョががたがた震え始める。
お前、そんなキャラじゃねえだろ。
震えるムンチョに腕を伸ばし、そのまま胸に抱える。
リリリリリリリリリリリリリリリリリリ。
リリリリリリリリリリリリリリリリリリ。
電話。
山味が置いて行った電話が鳴り響く。
受話器を取ると……
【……聞こえるかい? 親友】
「山味?」
【少しマズイ事になった。これからそちらに〜〜〜〜〜〜】
「山味、雑音が入ってる。よく聞こえねえ」
【〜〜〜どうか、彼女を殺してあげてくれ。君ならそれが出来るはずだ】
「は? 殺す?」
ブツッ。
電話が、切れた。
リダイヤルしても、繋がらない。
俺は、病室のドアを見つめる。
「…………誰だ」
声を、掛けた瞬間。
ぎいいいいん
扉が、割れた。
炎とギザギザした刃に焼かれ裂かれていた。
部屋に入ってくる。
それは輝きだった、それは熱であり、それは光であり。
細身の人間の身体、手足が妙に長くギザギザと変質している。
体からは全盛期を迎えた線香花火のような火花を散らし続ける。
顔は……回転する刃と炎の球……日輪を放つ太陽のような……。
病室に化け物が現れた。
その化け物は――
「『あ、な、た』」
聞き覚えのある――夜に溶けて行く透明なソプラノボイス。
【―ブラッド《B》・バレッド《B》・ブリージア《B》―】
◇◇◇◇
時に――西暦2038年11月26日。
極大の”タイプBeast”魔力反応を感知。
直後、獣達の王、第二席――太陽の獣本体、魔女の鐘付近に顕現。
太陽の獣の奇襲により、魔女の鐘――崩壊。
現時点での犠牲者――鐘守り2名。
探索者”斧使い” 山味サク、生体反応停止。
魔女 ”鋸と銃” 夜行ユキ、生体反応消失。
太陽の獣、本体、消失。
シントーキョー直上にダンジョンを形成。
夜行ユキ、ダンジョン消失から復帰。
直後。
夜行ユキの魔力パターン、変質。
魔力反応”タイプWitch”から”――タイプ”Beast”への変質を確認。
鋸と銃の魔女”夜行ユキ”の魔女認定を現刻を以て破棄。
夜行ユキの”獣化”を、魔女会――鳳翔院ホノカと水名瀬ツルギによって認定。
新たなる獣の名称は。
人類最後にして最前の防衛線
対ダンジョン防衛都市シン・トーキョーの全戦力へ。
人類の守護者たる
全魔女、全探索者へ次ぐ。
太陽の獣、及びそれに吸収同化中の――”鋸と銃の獣”を討伐せよ。
いかなる犠牲を払ったとしても。
【―第二部開始―】
~あとがき~
信じて。大丈夫です。次回は熱く曇らせます。
遅れてごめんなさい。
ここまで読んで頂きありがとうございます。
☆評価、フォローありがとうございます。
明日もぜひご覧くださいませ。
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