第17話 月やこの世の鏡なるらむ その1
「ワアアアン、ワアアアン! ワアアアン! ……ごめんなさいむーん! ムンチョのお手紙で、まさかお前にそんな迷惑かかってたなんて〜」
わんわんと泣くムンチョ。
目から噴水のような涙が出ているが、ベッドを濡らす気配はない。
明かされた衝撃の真実。
魔法少女達が曇っている原因――俺の嫌われ作戦バレの原因である”遺書”。
俺はその”遺書”を書いた黒幕野郎を探していた。
探すまでもない。向こうから現れた。
「まさか、お前が”モモナシラクヒト”なんて知らなかったムンよぉ……」
製作者は、この不思議生物だった。
意味わかんねえって。
なんでもありじゃん、推測も考察も意味ねえじゃないすか。
ムンチョに頼んでその、お手紙とやらを見せて貰う。
おい、完全に俺の字じゃねえか。
「ムンチョとお前、字が似てるのかむん?」
「そっくりだっつの、そもそも、お前、そのペンと紙はどこで手に入れた?」
ムンチョ曰く、ペンと紙は自分のポケットに最初から入っていたものらしい。
マジでなんでもありじゃん。
真面目に考察していた俺の時間を返してってば。
「……ムンチョ、お前にその仕事を頼んだのは誰だ?」
「む、むむむ、ごめんムン、何も……覚えてないんだムン。ただ、これは大事なお仕事で……誰かに頼まれたって事しか……」
ムンチョは短い手で頭を押さえながらうなっている。
本当の事を言っているとすると――”ムンチョに遺書を書かせた奴”が存在する。
まあ、ムンチョが嘘を言ってる可能性も十分あるんだが……。
「ムンチョ、お前記憶喪失って本当か?」
「う、疑ってるむん!? こんないたいけな小動物マスコットなのにむん……」
マスコットは自分をマスコット呼ばわりはしねえよ。
「そ、そんなに嘘を疑うなら――むんと契約すればいいむん!」
「また契約か……どうして?」
「契約すれば魂と魂が結び付いて、互いの思考が全部通じ合うむん! 嘘なんてついてないってわかってる貰えるむんよ!!」
「え、怪しいからやだ」
「MOON……まあ、確かに、今のはむんも、自分で言っててちょっと怪しいと思ったむん……」
怪し。マジで怪し。
逃がさなくて良かった。
手元に置いて見張っておかないと何するかわかんねえ。
クソ、原作BBBにムンチョなんて不思議生物はいない。
やはり、この世界は既に原作とは違う未来を歩んでいる事になるのか。
「クソ……身体さえ、動けば……」
最終作戦前の俺なら自分の足で動いて情報を稼いでいた。
魔法少女達のスカウトを何度も繰り返したおかげで、情収集とか黒幕探しは得意なのに……。
「あ、誰か、来るむんよ!」
「え。マジ!? ムンチョ、隠れろ、病院に生物はやべえ!」
「む~ん、ムンチョお前以外には見えないから問題ないむん」
ムンチョはそういって、俺の頭の上でくるんと丸まる。
あの、尻尾が垂れてるんですが。
そうこうしてる間に――病室のドアが開いた。
「……やあ、親友。さっきは急に悪かったね」
少し、疲れた様子の山味サクが病室に入ってくる。
「山味……か。あの子達は?」
「ああ。彼女達はその、別室で少し休んでいる。喧々囂々の話し合いだったが……私の指針に理解を示してくれたよ。……頑固な子達だが、君の身を一番案じているというのは変わらないね」
「……指針? 山味、あいつらに妙な事吹き込んでねえよな。……いや、悪い、失礼な物言いだった」
「ふふ、いや、気にしないでくれ。魔法少女想いは相変わらずのようで安心したさ、親友」
そこまで言って、山味は病室のパイプ椅子にゆっくり腰かける。
「その、親友、特に他意はないが……今は、変わった事はないかい?」
「変わった事? いや、別に……あ」
「な、なんでも言っておくれ。その、悩みとか、もしあるのなら私が聞こう」
俺の記憶になる山味サクという女は、飄々とか天衣無縫とか、そんな言葉が似合うよく言えば自由人で、悪く言えば他人を気遣う事をしない奴だ。
そんな女が、妙に緊張してるというかこちらを気遣うような言葉を吐いた。
珍しい事もあるものだ。
あ、そうだ。
「悩みでもないんだが……山味。今この部屋、俺以外に何かが見えるか?」
ムンチョの話の検証が出来るな。
本当に、ムンチョは俺以外に見えないのだろうか。
「え? いや、君以外、何もいないけど……」
山味が俺を見つめ、ぽかんと口を開ける。
ふむ……。
ムンチョが俺以外に見えないというの確定か。
次は、ムンチョに遺書をもたせて山味の前でアピールさせる。
それにも反応はない。
どうやら、ムンチョのポケットの中身もムンチョと同じで透明カウントされているらしい。
じゃあ、テレビのリモコンや花瓶はどうだ?
透明ムンチョが触れて運ぶものは、周囲の人間にはどう見えるのだろう。
……いかん、ゲーマーあるある仕様の検証癖だ。
今はそれよりも――。
「なあ、山味、それより――」
「親友、そこまででいい。君の望みは把握しているよ」
「え?」
山味が、今まで見た事ない表情を浮かべる。
普段は、もっと、こう……無表情というかニヒルというか、何考えてるかいまいち分からないハズなのに、今は、慈愛すら感じさせる表情で。
「病室の外、今、世界がどうなっているか。それが今、君が一番知りたい事だろう?」
「……もしかして、連れて行ってくれるのか?」
「ああ、外出の許可を、君の魔法少女達から貰っている、少し、外に出ようか」
「まじか!! 山味! お前、相変わらず仕事が出来る奴だな、オイ!!」
「ふふ、君ほどじゃないさ」
「いや、流石だぜ、山味! 持つべきものは理解ある同僚だな!」
俺の偽装結婚指輪をつけている事に関しては後で問い詰めるが。
今は……外の状況を確認したい。
あ、でも、魔法少女達は……あの子達はどうしたんだ?
「山味、すまん。あの子達は……休んでるって、どこか調子が悪いのか?」
俺の問いかけに、山味は目を見開く。
何か戸惑うような顔、そして困ったように笑って。
「君という男は……親友……」
ひしっ。
気付けば、同僚に抱きしめられていた。
花のような香りに包まれる。
想像以上に高い山味の体温、ぽかぽかしてくる。
山味サクは、何故か瞳に涙を溜めて鼻をすすり、嗚咽混じりに続ける。
「……っ、君は、そんな風になってまで……魔法少女の事を……担当官として、称賛に、価するよ……っ……」
そんな風に、なってまで……?
あの、それはどういう、意味だ?
◇◇◇◇
~同時刻~
「「「……」」」
夜行ユキ、鳳翔院ホノカ、水無瀬ツルギ。
3人は、山味サクが会議室を出た後からずっと無言で固まっていた。
山味サクとの話し合いの最中に、彼の病室監視モニターから洩れた声。
その声、ある男の呟きを聞いたから。
『――死にてえ』
桃無楽人が病室で独り呟いたその言葉を、彼女達は聞いた。
聞いてしまっていた。
~あとがき~
ムンチョ、もうお前しかいない。なんとかしてくれ。
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