第9話 どうして……遺書があるんだ……。
原作BBBにおける鳳翔院ホノカについて。
癖の強いキャラが多いBBBにおいて逆に珍しいピンク髪ポニテの正統派美少女なビジュアル。
柔らかい物腰、家庭的で世話焼き優しいお姉ちゃん気質な性格。
そして柔らかな雰囲気とアンバランスな、実は脱ぐとかなり凄い着やせするスタイルで見た目ファンも多い魔法少女。
キャラ性能も凄まじい。
広範囲高火力殲滅、鳳翔院ホノカを表す言葉に相応しい。
初期から存在するノーマル鳳翔院さんから、課金ガチャで入手できるSSR鳳翔院さん、夏季限定のUR水着鳳翔院さんなど、全員が一線級の性能を持つ環境キャラの1人。
【ゲーム用語解説:N=ノーマル、SSR=スーパースペシャルレア、UR=アルティメットレア。BBBにおけるキャラクターのレア度】
焼却。
万物を焼き溶かす事の出来るスキル。
それこそが、鳳翔院ホノカの強さの所以。
原作夜行さんが、基礎ステータスの暴力でゴリ押す最強キャラとすれば、鳳翔院さんは、そのスキルの異常性で自分より弱い者を確実、迅速に葬っていくキャラ。
多くのBBBプレイヤーはレベル上げ周回や、アイテム周回で鳳翔院さんにお世話になってきたはずだ。
【ゲーム用語解説:周回=レベルアップのための経験値や、敵が落とすアイテムを目的に同じ敵と何度も何度も戦う事、効率を求めて広範囲高火力のキャラが好まれる】
BBBの世界で担当魔法少女になった際――夜行ユキの次にスカウトに向かったのが彼女だった。
「ごめんね、センセイ、盗み聞きするつもりはなかったの。あ、今日はね、学校が早く終わってね? 生徒会の集まりもなかったから普段より早くここに来れたんだあ。今日は私が当番だからね。あ、そうだ、今日は近所のスーパー、お肉が安い日だったんだ。お豆腐があるからそれでハンバーグなんて美味しいかなって。センセイ、私のハンバーグ好きだったよね。あ、お花、お水替えなきゃね」
鳳翔院さんはいつのまにか制服ブレザーの上にエプロンを身に着けていた。
病室の花瓶、オレンジ色のガーベラを取り出し、水差しで給水してくれる。
彼女は家事や雑務を好んで行う。
自己犠牲エンドをぶちかます前も後もそれは変わらない。
無理にやめさせようとすると、体調を崩したり戦闘で動きが鈍ったりしていたので、止めるに止めれない。
原作でも、彼女に頼る事をやめると最終作戦前に失踪したりするBADイベントがあるほどだ。
もしかして、魔法少女ってめんどくさい子しかいないのか?
それはそうと……遺書の事は流してくれたのか?
「それで、センセイ、イショって言ってたよね? アレ、なんの事なのか聞きたいな」
流してくれてなかった。
こんな状態の魔法少女達の前で遺書の話なんて出来るか。
誤魔化さなければ――俺に天啓が走る。
「イショ……――よ、ヨイショ! よいしょおおお、く、首の筋トレ、首の筋トレをね! していたんだ! 鍛える事が出来る部分はまだまだある! イショじゃなくて、ヨイショね! かけ声でした!」
咄嗟の判断こそ、魔法少女担当官の真骨頂。
俺はその場で、首ブリッジを始める。動け動け、動く部分は動かしていけ!
どうだ、リハビリにしか見えねえだろ!!
「――あ」
シュボッ。彼女が手に持っていたガーベラの花。
みずみずしく咲いていた花が燃え尽き、灰に代わる。
鳳翔院さんのスキル出力と危険性は、最強の魔法少女である夜行さんすら上回る。
ちょっとした感情の動きで焼却スキルは発動する。
ゲームでは、低コストで連発出来る広範囲壊れスキルぶっ放し周回ウーマンとしてプレイヤーに人気だった鳳翔院さん。
低コスト高リターンの使い得スキルが現実にあるとこういう事になるんだね。
まあ、ひどい世界。
「そ、っか……そうだよね、センセイは、そういう人だったもんね」
そっと鳳翔院さんが聖母のような顔で俺のベッドに腰かける。
「センセイ……いつも、いつもさ、体、鍛えてたよね。私達を護る為にって。おうちでも、筋トレの機械とかたくさん置いてさ」
「あ、ああ、そうだな。リハビリさえがんばればいつかはまた動けるようになるだ――」
「もう、いいんだよ、センセイ」
言葉を言い終わる前に、鳳翔院さんに抱きしめられていた。
かなりまずい態勢だ。
エプロン姿の制服女子高生に押し倒されて抱きしめられてもうて。
条例に抵触してもうてんのよ。
だが、首から下が動かない。
「ふふ、ユキちゃんの香水の匂い……安心するのかな。自分の匂いをセンセイに着けるの」
嗅ぐのやめて下さいね。
「ユキちゃん。可愛いね。ずっとずっとセンセイにね、裏切り者って言っちゃったの気にしてるんだよ。毎晩毎晩泣いてるの」
……申し訳ない。
「だから、負い目があるのかな。最近は、こうして私やツルギちゃんがセンセイに匂いつけてもさ……前ほど怒らなくなったんだ」
声が、低くなった。
鳳翔院さんの体温に包まれているような感覚。
これは、良くない……。
健全じゃないですから、本当にね。
「……センセイ、可愛いね。前のセンセイなら、私がこうやって抱きしめたら、すぐにさりげなく離れてたよね。……かっこいいセンセイ。本家の男達はわざと私に触れようとするのに、貴方は違ったね、ずっと、ずっと誠実に……センセイは、いい人だもんね」
鳳翔院さんは体温が高い。
湯たんぽみたいだ……。いや、失礼な話だ。
「でもごめんね、センセイ。私、悪い子なの。センセイにくっつくと安心しちゃうんだあ。でも――悪い子でもいいってセンセイ、言ってくれたもんね」
……スカウトの時にそんな話したような気がするな。
違うんだ、原作イベントに介入の時は結構アドレナリンがドバドバになってしまってね。
「大丈夫だよ、センセイ。もうね、大丈夫なの」
「もう、何も頑張らなくていいんだよ、センセイ」
ミルクのような香り、お日様のような暖かい言葉が脳を侵す。
「大丈夫大丈夫大丈夫、もうセンセイは十分頑張ったんだから」
「センセイは、頑張り屋さんすぎたんだから」
結果出てないけどね!
大人の世界はね、結果出さないと意味がないんだ。
「大丈夫だよ、私、お姉ちゃんだから」
鳳翔院さん?
文脈がわかんない。何も大丈夫じゃないですけどね。
「センセイは、私を護ってくれた。助けてくれた。ねえ、私知ってるんだよ? センセイがとっても頑張ったこと」
「だから、もういいの」
「これからは私がセンセイを護るから」
「センセイを困らせるモノ、全部燃やし尽くすからさ」
「もう、頑張らなくていいんだよ、センセイ」
鳳翔院ホノカ、焼却の魔法少女。
彼女も、曇りに曇っていた。
なんで、皆、こんなに曇って――。
「どうして、だ」
思わず、声が出た。
「あんな別れ方をしたのに――どうして」
最終作戦。
『楽しかったのはお前だけだ。笑っていた? そりゃ、仕事だからな、愛想笑いくらいするさ、弁当ね、自分の血を吸う化け物が作るものを口に入れるのはひどく不愉快だったよ』
鳳翔院さんに最期に言った言葉、あんな事を言って別れたのに――何故。
「君は、君達は――」
「クスッ」
鳳翔院さんが喉を鳴らすように笑う。
透明な鈴が春風で震わされたような笑い声。
「あは、あは、あははははは――もう、やだなあ、センセイったら。――恥ずかしがっちゃってさ」
鳳翔院さんが懐から何かを取り出す。
「私達、もう全部知ってるんだよ」
彼女が茶色の郵便封筒を懐から取り出す。
封筒の表面にはこう書かれていた。
「センセイが私達の事、愛してたんだって」
”遺書、鳳翔院ホノカ様へ、担当官桃無楽人より”
どう見ても、俺の書いた字で、俺の書いた覚えのない遺書がそこに。
「ねえ、センセイ、イショって、遺書だよね。これの事、だよね」
誤魔化せてないじゃん。ダメじゃん。バカみたいじゃん。
「大丈夫、安心して、センセイの気持ちはね、伝わってるんだ」
「これをね、口に出すと読むと、安心するんだ」
「ねえ、センセイ。……これ、読んでもいい? 大丈夫、静かに、静かに、貴方だけに聞こえるように読むから、ね」
鳳翔院さんが、三つ折りの紙を取り出して俺の傍に寝転んだまま、遺書を朗読し始めた。
あ……え、え?
俺は、今、何をされている?
~あとがき~
読んで頂きありがとうございます。
本作は曇らせと物語進行が連動していきます。
主人公のおかれている状況は次回一気に判明していきますので引き続き御覧下さい。
ブクマ、感想、評価、ありがとうございます!
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