夜眠らない子は
尾八原ジュージ
ただいま
01-01
なんでって、よくわからないけど、さめてしまうんだから、仕方がない。
そういうとき、翠はひとりでいられない。もう一度眠らなきゃならないってわかっているけど、ひとりぼっちでは寝付けない。
むかし、翠はお母さんを起こしていた。
今はもっぱら、ぼくを起こすことになっている。
「お兄ちゃん起きてよ」
「起きてよお兄ちゃん」
肩をゆさぶられる。このくり返しなんだから、もう、起きるしかない。
目を開けると、いきなり翠と目が合う。ぱっちりと開いた黒目が大きくって澄んでいて、そこに映る自分の目玉まで見えるような気がする。
「お兄ちゃん、起きたね」
そうだね、おまえが起こしたからね。
起こし方からしてなんとなくわかってたけど、夜だ。
「目がさめちゃった」
「はいはい」
ぼくは布団の中からはい出す。子ども部屋の押入れの下段を空けて作った、ぼくの寝床がここだ。
かべにかかった時計の針は、二本とも真上をさそうとしている。翠はピンクのパジャマを着て、その上にフリースのベストを着ている。
夜中だ。まぎれもなく。
「何する?」
「おしゃべり」
「いいよ」
ぼくは翠のベッドのはしっこに座る。翠は床に置いたピンクの丸いクッションに座る。
「何話すの?」
「あのね、今日郵便局のポストに手紙出したの」
「うん」
「でもスイが話したいのは手紙のことじゃなくて、どうして家の近くのポストじゃなくて、わざわざ郵便局まで行ってきたかってことなの」
「うん。どうして?」
「あのね、うちの近くのポストの前に、細長いオバケ立ってるでしょ」
「そうなの?」
「そうなの。そのオバケがジャマだから、スイは郵便局まで行ったの。そのひと、持ってった手紙とろうとするし」
「最悪じゃん」
「そう、サイアク。そのひとにとられた手紙って、すごく汚れちゃうし。ねぇお兄ちゃんはさ、ああいう、明るいときポストの前に立ってるようなオバケって、夜どこに行くと思う?」
こういう、ウソか夢かわからないような話をしばらくしたりして、翠はようやくもう一度眠れるのだ。
こんな具合でよく朝とか昼間に眠くならないなと思うけど、ならないらしい。学校じゃ優等生で、勉強も体育もできてマジメなほうらしい。
だから翠が夜中にこっそり起きてるってことは、ぼくしか知らないんじゃないかと思う。
「お兄ちゃん起きてよ。起きてよお兄ちゃん。起きて」
翠に叩き起こされた。
例によって真夜中、ぼくは押し入れ下段。
「なんだよ。今夜はどうした?」
「だれか帰ってきた」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます