第7話 解散

 警視庁の神田警察署は神田税務署の隣にあり、四車線の一方通行という珍しい大きな通りに面している。その通りは神田警察署通りという。その神田警察署の署長室では署長がデスクを前にして椅子に座っていた。署長のデスクの前には岩田と宮崎という二人の刑事と刑事課長が苦々しい顔をしていた。

「どういうことですか? 捜査を打ち切るって」

 一番不満顔をしていたのは岩田だ。

「いや、怪しいことはなかったんだろう?」

 どこの署でも同じだが、署長はただただ自分が署長の椅子に座っている間、大きな事件なく過ぎ去ることだけを願っている。この署ではそれが顕著だった。

「それを調べているんじゃないですか。不審な点ばかりです」

 若い宮崎刑事はもっとも不満だったが、顔には出せなかった。

「指紋の件か? あれはたまたま封筒に入れるとき手袋でもしていたんだろう」

「今回の防犯カメラの件はどうですか?」

 宮崎刑事が珍しく食い下がった。

「なんかの手違いで別の日の映像を送って寄越したんだろう」

 署長はなだめるのに必死だった。宮崎刑事が思わず口走った。

「そんなバカな! もしかして圧力ですか?」

「何を馬鹿なことを」

 そういう署長の顔をうかがいながら刑事課長が言った。

「そうなんですね。そりゃあ天下の帝都グループだ、政治家だろうが官僚だろうがいくらでもコネはあるんでしょうが」

 ついに署長が持っていた書類をデスクに叩きつけながらわめいた。

「違うって言っているだろう。なんにしろ解散だ」


※    ※    ※


 その居酒屋は岩田と宮崎の二人の刑事の行きつけだった。警察署に近いからというのもあったが、とにかく安いのがありがたかった。普段はカウンターでやって、若い宮崎がぼやくとベテランの岩田が宥めることが多かったが、この日は珍しく岩田が個室を予約していた。個室を予約する前に岩田がもう一人だれかに電話していたのが宮崎には気になっていた。その宮崎が突き出しで出された小アジの南蛮漬けをつまみながら愚痴る。

「急に捜査中止だなんて、まったくやってられないすね」

「そうだな。どこから圧力かかったんだ?」

「相手が帝都グループじゃあどうしようもないですけどね。警視総監ですかね?」

「かもな」

 冗談で警視総監の名を出した宮崎は思わず、小アジを落としそうになった。

「マジすか? 警視総監も動かせるんすか?」

と言ってもいまの警視総監がだれか、どんな顔をしているかすら宮崎には怪しかった。

「ガイシャの御手洗吟の叔父にあたる御手洗憲次ってのがいるだろう」

 岩田がそう言うと宮崎は病院へ親族を訪ねにいったときのことを思い出した。ビニール袋に入った封筒を見て自慢げにしゃべっていた男がいた。

「ああ、封筒を受け取りに行ったときにしゃしゃり出てきたオヤジですね」

「あの御手洗憲次が経営している帝都セキュリティは、警察OBのいい天下り先になっているんだ。その線も十分考えられる。政治家の線の方が強いだろうけどな」

 個室のドアがノックされた。岩田刑事がドアを開けるとショルダーバッグを持った男が立っていた。男は四十前後で、小さい口ひげを生やしていた。

「おう、来たか。入れ」

 岩田が招き入れた。顔見知りのようだ。

「ガンさん、だれすか?」

 宮崎が岩田に訪ねると男はポケットから名刺入れを出すと、中から名刺を取り出し、宮崎に差し出した。

「週刊『スクープ』の記者をしています高木と言います」

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