第3話 獅子奮迅の猛将
「順調であるな。」
「途中途中に小岩などを落としたのは一体?」
「馬を使う際、避けて通る道はどこか?」
「それは道が歪んでいる箇所や泥のような走りにくい箇所かと。」
「そうだ。」
「で、ですがその蹄はあの程度弾くかと。」
「よい。それこそ仕掛けの意味がある。」
川で組んだ水で地面によく水分を吸収させ、土を柔らかく整地しておいた。
小石を飛ばし進もうとすればそのちょっとした凹みに馬は反応する。馬車自体も傾き、別の道へ行かねばならぬところへ誘導できる。
じっくりと地形を把握しながら進めたのが僥倖であった。
「時間稼ぎをしてもこの岩で固められた壁は今暫くはできないかと。」
「それも違う。全てはある一手を仕掛けるための策である。たったこの一撃で暫くの時を稼げる。
だがこの作戦は黒蘭の働き、そして世の指示通りに其方らが動いてくれぬと厳しいものとなる。」
王英が見つめる先、森林地帯より遥か遠く。ロードネス。
いち早く強化魔法で突き進んだ黒蘭は崖からその国を見る。
「…………大役心得ました。しかとこの役、こなして見せましょうぞ。全ては御身の忠義に応えるべく!」
黒蘭の忠誠は信じる対象への依存度が大きければ大きいほど、ステータスを大きく発揮する。
このことを読んだのか、大役と称した指示を与えていた。
成功の可否に問わず、本人の底上げを目的としている。王英の第一目的として、遣いの使者の時間稼ぎと抹殺、そしてロードネス国で起こる騒ぎ。この点だけが必要であった。
だが彼女は知らない。王英が真に狙っている先を。
「限界か。」
村長や他の住人一同はただ固唾を飲んでこれからの出来事を見守る。
「あっ!あっあれ!」
コロコロと奥から馬車が見える。車輪が若干ボロボロの馬は泥だらけ。そして疲れた表情の3人の騎士と使者たち。
3日の遅れを持って無事、税の回収に到着した。
「しょ、将軍様!」
「うむ。」
それでも彼は高台から降りず、暫く奥を見つめている。ロードネス国がある方向を。
「おい!村長よ!今月分の税を回収しに参ったぞ!いるのは分かっている!」
道なりが良くなかった影響か、イラついている態度を露わに要求する。村の人々は静かに見守る。
「こっ、こちらですぞい……」
村長が恐る恐る奥から門付近へ現れる。だが、彼等が待ち構える門より離れた位置には向かわず、ただ怯えるようにジッとしている。
死者は「チッ」と舌打ちをし、イラつきながらも自分たちの今の状況から察し、馬車から護衛を引き連れ降りて行く。少しずつ村の人々が恐怖し怯える門の前まで近づいて行く。
その愉悦に徐々に今までのことが嘘であるかのように薄れて行く。そしてジリジリと迫る。
フっと突如として彼等が視界から消える。歩いてきた3人も急に真っ暗になったため、気が動転する。
「いまだぁぁぁぁぁ!!」
誰の掛け声か不明だが、何やらドタバタと周りがうるさくなる。音は辛うじて聞こえる。しかし視界は暗い。
すると、ガンっ!と何か衝撃を覚える。鈍痛が伝わる。同時に上からジャリジャリしたものも聞こえる。
そう。村人たちによる落とし穴と投石、そして土を更に上からかけられるという惨事がひきおこされてた。
村人たちは男女構わず、それぞれが思い思いに必死に穴へ向けて必死に声や力を振り絞って投げ入れ、かけ続ける。涙や汗が混じる。
「やるんだ!」
「そうだ!私たちがやるんだ!」
「やらないと守れない!」
「そうだ!そうだ!」
この異常な士気と必死さはある1人の男によって引き起こされていた。村人全員による集団殺人という異形を行わせていた。
その男は数刻前
「そろそろ世も出陣せねばなるまい。」
「そんなぁ!将軍!我々はどうすれば!?」
ガヤガヤと不安が波のように伝わる。
鎧をガシャン!と鳴らすように横へ手を広げる。
「皆の者、落ち着くがよい!」
そして片方の槍の柄で一拍音を鳴らし、より静寂を取り戻させる。
「此度の戦はこちらが劣勢なのは言わずとも承知しているはず。だが、このままこの劣勢状態を続けたとしても、現状の税収や民の暮らしからとても改善されるとは思わぬ。
であるならば!武器を取るがよい!武器を持てぬと言うのであれば、石を持てい!ダメだと言うなら小石を持つが良い!」
更に二拍ガンッ!ガンッ!と大きく槍の柄から音を鳴らす。
「其方らの弱き心に火を灯すのは世ではない。手に覚悟を持つ其方ら自身だ!ここから先、何が起こり得るか未知ではある。
だがこの王英が居る限り!負ける戦はせぬ!ここに誓おう。其方らと共に世も前線へ赴く。」
「しょ、将軍………お、俺はっ!やるぞ!」
「俺もだ!家族だっているんだ!」
「私も娘や息子もおります!」
「まだ死にきれねえ!」
奮起する士気、相手が3人であるということも前提ではあるが、その勢いを超えるほどの力強い声援が響き渡る。
「世は其方らの未来への脅威を確実に取り除くべく今から出陣する!
すまぬが、村長よ。」
「はい。」
「皆のこと、世の代わりに任せるぞ。良いな?」
「ははっ!将軍こそお気を付けて!」
「うむ!感謝する!」
こうして御館王英はロードネス国とはやや違う方向へ進んでいく。だが皆はそれを知る由もない。
必勝の戦術は数多先にある。
「死ねぇぇぇぇぇぇ!!」
ザシュッ!と勢いよく剣が振られる。そして男や女などの臓物や鮮血が飛び散って行く。
1人、ロードネス城内は侵入した黒蘭はただ仕掛けや隠蔽もなく、門から勝負を仕掛けていた。だがその強さは二つ名に恥じぬ鬼神が如く。怒涛の嵐で敵兵たちを斬首していく。
最早以前の崇高なる騎士とは違い、狂戦士と化している。
「死にさらせぇぇぇぇぇぇぇ!」
キンッ!!とようやく肉片の音ではなく、鈍い剣音が鳴り響く。
「暴れすぎであろう。お主……」
「誰ダァ?貴様?」
「………っっ!お主もしや!あの勇者国の忠義の閃光アーネス!?」
「知りませんねぇ!!」
お構いなしに剣を振るう。だがまたしても受け止められる。
盾による防御のため、剣ごと真っ二つにはできず弾かれてしまう。
彼女の攻撃は大胆そのものである。現に受け止められる前までは剣や鎧を綺麗に両断する力そのものでねじ伏せていた。
騎士長としての剣技や魔法を組み合わせた攻撃といった器用な戦闘スタイルは発揮していない。
王英の見事なまでの両断と力強い姿を脳裏に焼き付けているための模倣である。
元の腕力差やスキルによる補正から本来であれば難しい所業であるが、彼女のスキル『忠義』によるステータス補正で腕力任せの真似事が可能になっていた。
「以前のような気品さがない貴様なぞ、アーネスに在らず!この地の副官にして守護騎士バルボロが見事討ち取ってしんぜよう!」
「誰か知りませんねぇ…、我が名誉と誇りは王英将軍にあり!かの将軍こそ、この世界に名を刻む者である!」
「ほざけ!」
そして剣がぶつかると思いきや、バルボロの剣は黒蘭の力任せの剣を受け流し、そのまま首を捉えようと迫る。
だが、フッと視界から消える。バク宙で捻り返すと同時に横に一閃斬り込む。しかしキッーーン!と盾の衝撃音が鳴る。
そしてそのまま盾で押し返すように距離を離させる。
吹き飛ばされた黒蘭は難なく着地する。
「!」
だが次の瞬間、矢が頬を掠る。遠距離からのクロスボウによる射撃であったが、紙一重で避けた。
続け様に飛んでくるも、綺麗に避けていき建物の壁がある箇所へ避難する。
「フッ。バカめが。」
バルボロによる雷魔法が唱えられる。バチバチとした電線が隠れている黒蘭へ向かう。
脅威を感知したのか、すぐさま壁から離れるが、その直後に隙のない遠距離攻撃が飛んでくる。矢を綺麗に避けるが、休む暇もない。
「イラつく!」
防戦一方となる。だが時同じく、ある男がロードネスへ辿り着いていた。男の手は血塗れで濡れており、見るものを驚かせる。
「なっ!なんなんだ!?お前!」
流石の門兵も警戒心を抱かざる負えない。ただ男はギロリと開けた目で周りを見る。
「少々犠牲が多くなるが、致し方無し。」
「??」
男の言っている意味が分からなかった。だが草陰からガサガサと何やら騒がしくなる。その瞬間!
「ぐきゃぁぁ!ぐぎゃ!」
ゴブリンが現れた。だがそれだけではない。
「ガルルルルッッ!」
オオカミやオークも現れた。一体なぜここにこれだけの魔物が現れたのか?疑念を抱くもの多いが、今はそれどころではない。
「まっ、魔物だぁぁぁぁぁ!」
「もっ、もん」
ザッシュ!と門を閉めよ!と指示を出そうとした人を一人仕留めて、そのまま中へ入る者が1人いた。
そして逃げ惑う人々の中を飛び越えていき、見事国内へ潜入する。
「うむ、順当か。」
男はそのまま走り去って行く。途中追い掛けようとする者もいたが、市民の安全を優先すべく、迫り来る大量の魔物を相手に追うのを諦めてしまう。
「魔物とはいえど、所詮は畜生よ。入り口までは侵入できるが、そこまで頼りにはならぬ。
だが此度の時間稼ぎ、黒蘭による強襲から前後における騒ぎ。これほどの好機滅多にない。」
「止まれぇい!ここから先は立ち入り禁止だぞ!」
明らかに崩壊した城の門付近には衛兵たちで固められており、如何にも何かが起こっていると悟るには十分な状態である。
躊躇いのない王英はスピードを緩めず、ただ大きな槍を一振り振り翳す。
「フンッッッッ!!」
いつかのアニメなどで見た光景であろう。盾や剣を構えた敵を槍一本で薙ぎ払う。
正に力任せに振り翳した進軍を今己が身をもって体現している。
御館王英はこの時点で自身の士気が最高潮にあることを察する。
「フンヌッッ!!」
次々と迫り来る敵陣を薙ぎ払い、前へ前へと突き進む。
「行かせるか!!」
足を掴まれ、立ち往生する。
「死ねぇ!!」
数多くの刃が彼を襲う。だが槍ではとても捌き切れない距離感、そしてタイミング。
であるならばと。腰の剣を引き抜き、斬首する。
「邪魔だ。」
槍の柄で足を掴んでいた兵の顔を潰し、再び走り出す。
今の彼の進撃を止める者はいない。
「ふむ、こちらか。」
明らかに一つ異質な戦闘跡が残されている部屋を発見するも、敢えてそれとは逆に向かう。
「なっ!何やつ!?」
「失せろ!」
槍で真っ二つに刻む。そしてその死体がドアを突き破り、震え怯える青年の元へ辿り着く。
「なっ!なんだ!なんなんだ!お前は!?」
日本人のような容姿をしている。同胞のような、そんな雰囲気を感じ取るがすぐさま違うことに気づく。
金色の目にやや金がかっている髪色から誰かの血筋とみた。だが王英はただ無言でその男へ近づく。
全身鎧の仮面男が前に立つだけで恐怖間違いなさであるのと同時に、ギロリと睨んでいる訳ではない剥き出しの視線と。
この男には冗談は通じない。そう思わせるには十分な存在感を放っていた。
「っ!たったっ、頼む!い、命だ」
そういう前に王英は無抵抗の青年の首を斬り落とす。そこに後悔も何もない。
まるで効率を求めるかのように、仕事をこなす。そんな姿である。
「では次に参るかの。」
壁際に槍を構える。現代にいた頃はここまでの力はでなかった。スキルとやらの力が合わさったからか、何やらこの力技が可能になると思った。
「フンッ!」
槍を壁へ叩きつけた。次の瞬間、まるで壁抜きをしているかのように、その衝撃で次々と壁を打ち砕いていく。
そして隣で戦闘している黒蘭たちの元へ辿り着く。
ドッガァァァァァァ!!と恐ろしいほど鈍い音が鳴り響いた。
そしてその砂煙から鎧姿の男が姿を現す。
「待たせたな黒蘭よ。」
「しょ将軍様ぁ!」
1人高揚する黒蘭に対して、盾と剣を構えた男は静かにその場を見守る。
「その部屋の角度………もしやマウジ様をっ!?」
「何も驚くことはない。奇襲に奇襲を重ねただけよ。」
「貴様っ!どこの国のものだ!?」
剣を向けられる。だが王英は答えない。
「国などない。建国はこれからぞ。」
ゴゴゴゴゴと謎のオーラが漂う。その大きくなって行く圧力さにジリジリと後ろへ後退仕掛ける。
ピュ!と一本の矢が飛んでくるも、王英はなんの躊躇いもなくその矢を握り止める。
「なっぬ!?」
「はっひ!?」
黒蘭含めて流石に驚く。
この男、矢や銃弾のような遠距離に対抗すべく日夜バッティングセンターや卓球場などでボールを見ずに握り止める訓練を行なっていた。
速さが選べるよう、各地を転々とするその姿は正に現代の変態と言われている。
しかしこの訓練たちが実り実り、スキルによる力を重ねた結果、見事その人外の領域へ至っていた。
そしてその逆も然り。
握っていた矢を今度は飛んできた方向へ投げ返したのだ。
その後音はなく、静かな静寂だけ漂う。
「ふむ。お得意の射手を仕留めたぞ。次はどのような手品を見せてくれるのだ?」
「…………お主…何者……神の遣いとは理解しておるが、それにしてもその異様さ……余程の修練と実践の末に手にした物と見た。」
ただの拗らせた厨二病が彼を作っているとはいざ知らず、素直にその実力を評価するバルボロである。
「だが甘い!」
ビリビリと凄まじい雷撃が練られていく。
「っ!もしやそやつが魔法の1つか。」
「驚くか!!ではやはり降り立っただけのヒナよ!喰らえぇぇぇ!」
「将軍!!」
「よい。世は世である。」
槍を投げる。途轍もない豪速球になんとか身体を捻り避けた。盾で受け止めようもんなら完全に自身ごと貫いていたであろう。
そんな予感を頼りに避けた。
「これで手ぶらよ!」
「なんの話だ?」
将軍の手には投げた筈の槍が握られていた。
「フンヌッッ!!」
ザッシュ!!と槍先でバルボロを肩から右斜へ両断する。豆腐でも切るかのようにあっさりとした斬撃であり、正に武芸達者と評価されるべきである一撃となる。
「ぬぅぁぁぁ!」
種明かしは簡単である。力任せに投げて、力任せに足で地面を蹴り出して、そのまま槍をギリギリで掴み、そのまま斬りつける。
正に脳筋による力業である。ただ思い思いのままやり切った。ただそれだけ。
「すっ、素晴らしいっっ!ぬっ、濡れてしまいます……」
黒蘭の卑猥な表情や態度に目もくれず、今周囲を見渡す。
「黒蘭よ。」
「はっ!はっはひ!」
唐突に名を呼ばれたためか、噛んでしまう。
「奥に転がっている当主の首とそこに転がっている男の首を掲げよ。
顔が割れる訳にはいかぬ。討ち取ったということをこの国で留めておきたい。村で発表するには些か危険である。」
「はっ!承知です!」
話は聞いてない。だが黒蘭は返事をする。指示されたことのみを遂行すべく。
立ち去っていく黒蘭を他所に、王英は次を考える。
このロードネスを取り返しにくる可能性も無きにしも非ず。だが、周辺と睨み合っている状況も村での情報で割れている。
果たして速攻で攻め立てるか?だが、そこまで大きく反映されている国とも思えぬ。この税収の回収から恐らくは他の村も被害に遭ってるに違いない。
「ならば次なる一手は…………」
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