第2話 将軍は村を訪ねる

「王英将軍!疲れてはおりませんか!?よろしければこのアーネスがお運びさせていただきます!」


「良い、構うな。世は自身の足でこの地理を把握せねばなるまい。

 地形を理解し、来るべき戦いに備える。常に把握できる箇所は余さず行わなければならぬ。」


「その慧眼、誠に素晴らしいです!このアーネスも是非学ばせていただきます!」


 世は配下を1人手にした。アーネス・ベラ・エモルトという勇者国で騎士長を務めていた御仁である。

 世の手を取った後、何やら怪しげな言葉を並べては涙し、世に忠誠を誓っておった。来たばかりで言語が理解できない点からこの戦力は好ましい。

 だがこの先、この世界の言語がいついかなる時役に立つかは分からぬ。心して取り掛からねば。


「王英将軍、この樹海は野生の魔物が彷徨いておりますが、少しここを抜けると村がございます。

 私が覚えている限りではございますが、確か……一件あったような。」


「であるか。ならば確認をせねばならまい。」


 斥候を出せない今、世と此奴で捜索せねば答えが見出せぬ。

 強力な存在と気配はせぬが、油断は許さぬ状況、アーネスの魔法と野営だ上手くしのいではおるが、いい加減拠点となる村を見つけておきたかった所だ。


「王英将軍、よろしければ私が斥候を。」


「ならぬ。世の配下である以上、世の指示以外で動かさぬ。其方は貴重な戦力であり、この世界の住人なるぞ。」


「なっ!なんと勿体なきお言葉!!ううっ!」


 少々大袈裟な気もするが、まあ良い。将軍という響き、誠に甘美なる。大目にみよう。


 アーネスは騎士が使っていた鎧を軽装式に着させている。剣も2本とも所持させている。女ながら重みを感じない胆力、余程の修練を積まねば発揮されぬ実力とみた。

 良い拾い物と見るべきか。


「将軍………」


 アーネスの魔法とやらの警戒に引っかかったのか、動きを止める。


「うむ。魔物…………あの緑の小人…」


「ゴブリンです。」


「うむ。アレが噂に聞くゴブリンなるもの。どれ、世が相手しよう。」


「なっ!なりません!ここは私が!」


「世は己が力を見極めねばならぬ。

 先の戦いでは不意打ちもいいところ。心を鬼にする戦いと言えど詰める経験はすべきである。」


「はぅ!なっ、なんと立派な心!このアーネス、王英将軍の素晴らしさに感動しました!

 しっ、しかし、恐れながら。」


「くどい!世は世の力をいずれ多くの者に知らしめなければならぬ。ここで退いては笑われる。」


 カンッ!と敢えて槍の柄で音を鳴らし、ゴブリンへその存在を気づかせる。


「ぐぎゃあ!」


「ぎゃぎゃ!」


 森から10匹のゴブリンが出る。普段のゴブリンならすぐさま襲いかかるが、何故か目の前の不気味な姿をした鎧男に警戒をする。


「どうした?世はここだぞ?来ぬというなら、こちらから行くぞ!」


 ダッと駆け抜けた王英は先ず容赦なく2体の上半身を一刀両断にした。

 続けて迫り来る3体を横に薙ぎ払うように真っ二つにする。


「軽い!」


「ぎゃぎゃぁ!」


 今度は投石で王英を狙うが。


「甘い!」


 長い槍の棒部分で弾き返し、その石は2体のゴブリンの頭を抉っていく。


「ぎゃぁ!ぎゃあぎゃぁ!」


 残り3体が逃げるその時


「逃がさぬ。」


 槍を投げ一体を仕留めた後、自慢の肉体と身体能力を生かし、素早く接近し、地面へ刺さった槍に乗っかると。


「ふぅぅぅぅぬぅ!」


 腰の剣で残りの2体の首を刎ねてしまう。


 辺りは一気にグチャグチャの血塗れと化す。

 そして血を薙ぎ払い、剣を仕舞い、槍を手に取る。


「軽い運動にはなった。だが直接戦闘はあまり良いデータは取れぬようだ。」


 サッといつのまにか隣で跪いたアーネス。


「流石は王英将軍…お見事です。このアーネス足下にすら及びません。」


「世辞は良い。このまま進むぞ。」


「はっ!」


 ボッと後ろのゴブリンが燃えていく。アーネスの魔法によるものらしい。

 どのような事が特技か?なども聞いてはいない。その力の解明に時間が割けて居ないのが現状であった。


 そのため一刻も早く、腰を落ち着ける村を探している。


「そろそろかと。」


 そのまま静かに歩き続けて数時間後、草原が漂う奥地に村が見えた。城壁ではなく、木で作られた囲いと川が流れる優雅な風景、藁や木でできた平凡な形、畑や家畜といったただの村である。


「うむ、ではあそこが暫くの駐屯地となる。」


「はっ!将軍の居城にすべく、粉骨砕身で働かせていただきます!」


「うむ。では参ろう。」


 村の入り口に立つ。そして皆が警戒する。

 当然である。こんな甲冑姿と血で濡れている騎士、どう考えても普通ではない。

 マスクのような目から放たれる威圧もまた、恐ろしいものであり、子供や女を涙させる。


「世はこの地に舞い降りた将軍『御館 王英』と言う。ここの村長と謁見をしたい。」


「王英将軍は貴様らと戦いには来ておらん。ましてや支配なども望んではおらん。

 だからこそここの村長には正しい選択を期待する。」


 アーネスも堂々と胸を張って王英の意思を間違えた汲み取りをしないようサポートする。


「わ、わしが村長ですぞい。」


 プルプルと震えているのは腰が悪いのか、それとも恐怖か。


「すまぬ。容態がよろしくないように見えるが許せ。急を要する。」


「は、いっ、いえ。」


「世を暫くここに置いてはもらえぬか?」


「はっ、はぁ………ここは何もない、ただの平凡な村でございます。敢えて何者かは問いかけませぬが、何用でこちらへ?」


「すまぬ。だが世は偽りなく将軍であり、少々迷ってしまってな。」


「王英将軍はこの地に降り立った神の使いだ!」


「かっ!神の使い!?な、なんと恐れ多い。」


 ははー!と周りが土下座をする。


「王英将軍は降り立った者として拠点を探すべく放浪なされていた。

 かく言う私も祖国への想いを踏み躙られ、死をまた毎日の最中救い出していただいた。将軍は紛う事なき本物である。

 このアーネス・ベラ・エモルトが誓う!王英様こそ真の英雄であり、将軍であると!」


「あ、あのアーネス様!」


「どうして王の懐刀がここに!?」


 より真実味が増したのかよりははー!と言う体制に。何か世が描いていた風景とは大分異なるが、今は良い。


「すまぬ。顔をあげてはくれぬか?」


「いっいえ、滅相もございませぬ!」


「話が」


「神の使いと話すなど見に余り過ぎる光栄…」


 1番弱いと言っておったからもう少し楽に進めると思ってあったが……何やら意味がありそうだ。

 だが今にして思えば不思議なことはない。世以外にもこの世界へ降り立つ者たちは多いと聞く。

 であるなら、この対応も納得いくところ。


「王英様、ここは私にお任せを。」


 現地人を頼りにするしか今他ない。


「うむ。頼む。」


「王英様の1の配下であるアーネスが承る。」


「かっかしこまりました!」


 やや不服だが、一旦世はアーネスを介してこの世界と周辺、そしてこの村の状況と状態を理解した。


「ふむ………」


 馬の小屋代わりの部屋を一件借りていた。


「よ、よろしかったのでしょうか?何分このようなところではなく、村長が家を提供すると…」


「良い。それとくどいぞ。

 敢えてこの地を選んだ。受け入れられただけでも良い。それにここはここで割と状況把握がしやすい。」


「流石は王英将軍、私如き浅慮では推し量れません。」


「アーネスよ。其方の名は有名過ぎる。一度その名を終わらせたい。良いか?」


「構いません。元よりこの名は我がかつての祖国でのこと。今は1人の配下として。」


 ジッと見つめるその目から世は決めた。


「主は『黒蘭こくらん』と名乗るが良い。」


「はっ!拝命承りました!」


 黒き鈴蘭のような美しさという意味を兼ねて付けた名である。


「黒蘭よ。世は周囲を見てくる。」


「はっ!では盾である私を」


「良い。どう見ても魔物の気配はない。その上で今は安全と判断しておる。

 だがいつまでもとは限らぬ。そのための対策として時間が許される限りで見れる範囲とこの住人たちを確認しておきたい。」


「承知いたしました!

 しかしこの黒蘭は一体?」


「うむ、其方には情報を集めてほしい。収穫の時期、家畜、そして麦や税、どのような国の奴等が来るのか?それと女子供の数、男、老若男女問わず、その素性を全て調べておくのだ。よいな?」


「はっ!その命、この命に変えても!」


 こうして2人は二手に分かれる。























「これはアーネス様」


「ああ……村長よ。今日からは我が名はアーネスにあらず、『黒蘭』と名乗る。周囲にはそう知らせろ。」


「はっ!して、その意味は?」


「周囲の敵やこれから来る可能性のある者たちを刺激しないように。と言う意味もある。

 私如きの名が轟いてしまったのは過ちであったが、それを嘆いても仕方のないこと。だからこそだ。」


「かしこまりました。それと他には?」


「ああ、聞きたい事が…………」


 どうしてこのようなことまで聞くのか?そのような疑問が浮き出るであろう。

 だが私は違う。王英様に救われた命、そして王英様が将軍として降り立ったとされる奇跡、この全てが運命と言わずしてなんと言うか。


 絶望に打ちひしがれていた私、躊躇いもなく伝説の秘薬エリクサーを使う品性…神の使徒として現れた紛うことなきお姿!

 今までの私は何をやってきたのか?それすら疑う。

 そんな私に新たなる名を授けて下さった。『黒蘭』という唯一の名、将軍が名乗ることを許した。

 正に天にまで昇るほど嬉しく舞い上がってしまいました。かの将軍の手となり足となる。その時を心待ちにしている。


「それにしてもどこへ?」


 王英将軍には話さねばならない過去がある。敢えて私のことを後回しにしていただいてるのは理解していた。

 かの方は今どう戦い生き抜くかを見定めていられる。私のような凡庸が邪魔をしていい道理などない。

 だが、お側で常に見守り支えなくてはならない。これは何においても大事な事態であり、私の使命である。


「王英様!」


 駆け寄ろうとしたが、何やら村の高台から一点を見つめている。

 かつての祖国勇者がある国アルカディアとは逆の方向であり、その先は別の神の使徒がいるとされているロードネス魔法国の領域であった。


 まじまじとただ見つめる姿も美しくイってしまうところではあるが、我慢我慢である。

 次は村をマジマジと見詰める。状況は先ほど私が確認した筈だから、村の状況を直に確認されている?と言うこととは思われる。


 そして私へ目線を移し、暫く塾考されている。

 あ、やばい……濡れる。


















「十分得た。」


 納得したところで世は大人しく待っている黒蘭の元へと戻る。


「すまぬ。成果を?」


「はっ、ひゃい。」


「?」


「も、申し訳ありません!」


 暫く


「というところになります。」


「そうか。では、そろそろ税収としてロードネス魔法国領の奴等がこちらへ乗り込んでから時期とみた。

 あの状況と道なりからして、毎度のこと………3刻ほど……か。」


「はい。ですが……」


 村を見渡すと察しがつく。麦の収穫が明らかに間に合っていない。


「王英様、使いの者を消すのは容易です。」


「ふむ、その通り。だがこの度の戦いはそれだけでは勝利せぬ。であるなら……」


 2人は作戦を話した。


「かしこまりました。」


 黒蘭として、アーネスの過去を知ったことで練られた作戦である。

 アルカディアというところでも勇者というかなりの強力な力を有した者が降り立ったとか。この時点で順番を決めて戦わねば、こちらに勝機はない。


「この戦いは速さが命取りとなる。故に心して掛かるが良い。

 世の予想が正しければ、取り立てに来る近隣の領主はどうも武に優れたやつではない。」


「仰る通りでございます。」


「うむ、世は世で対応しよう。其方も気を付けて行って参れ。」


「はっ!」


 黒蘭はそのままサッと居なくなり、夜の森を駆け抜けていく。


「黒蘭の持つ忠誠、そして魔法……これがどう出るかが勝負の鍵となる。」


 王英は次なる作戦に出る。


「敢えてこちらの陣へ乗り込むというのであれば、これを利用しない手はない。

 策を弄する。聞け!者たちよ。」


 王英は周りへ傾聴するよう敢えて威圧を放つ。


「此度の戦、世の言う通りに動けば万事解決する。だが、忘れてはならぬ。

 恐怖や怯えは重要だ。蛮勇的行動は慎むようにせよ。そのような行動を取らずとも良い。ただ世の指示通りに動くのだ。良いな!?」


「はっ!」


 王英には謎のカリスマが宿っていた。

 神の使徒として降り立った。ただそれだけではない何かが見ず知らずの村人たちを突き動かしていた。


「木彫りの柵から岩を積み上げておくのだ。できるだけ少しずつで構わない。

 この作業は岩を拾うところから始まるので、世と共に森奥へ取りに参るぞ。牛の足ならば多少の重荷耐えられるであろう。

 しかし魔物は寄ってくるがゆえ、私が露払いをする。後は分かるな?」


 村の中でも勇気ある男たちに王英は問いかける。コクリと静かに頷く彼ら。

 自身の生活と安寧を守るべく、今はこの男に付き従うのみ。


「では参るぞ。」


 こうして使いが来るまでの間、ひたすら岩を拾い集めては持ってくる。という作業のみを繰り返し行なっていた。

 外敵から身を守るのに必要とされる防壁を作るべく、単純な人力でこれを成そうと動く。


 しかし、これはこれから来る遣いの者たちへの対抗策ではない。この先必要となる戦いにおいての意味を込めている。

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