第7話 君の産声が聴きたい
「人はなんで幸せになろうとするのかな?」
注ぐような微風の屋上から階段を降りている最中。
ぼくは、ふと思ったんだ。
「ああ? そりゃ、イケてる人生送りたいからだろ。誰だってどこかでイキがりたいんだよ」
石谷くんが、松葉杖なのに素早く階段を降りながら陽気に答えた。
「今更、イキがってもなあ……」
「へへっ、どっかにはあるって。先のこともわからない人生なんだからイケイケでイキがってりゃいいんだよ」
石谷くんは階段の真ん中まで降りると、松葉杖で器用に止まって、笑いだした。ぼくは度々屋上へのドアを見てしまう。
何故か、そんな石谷くんの姿を見ていて、今のぼくとは……いや、今までのぼくとも対照的に思えた。
202号室まで石谷くんが、付いて来た。病室の前に、綺麗な女の人が二人いる。その二人は、真剣な顔で、お互いに少し強めに話し合っているようだった。
そんな二人に石谷くんが、鼻の下を伸ばして早速話し掛けた。
その女の人たちは、背が高く。
美人だった。
憂いを含んでいる横顔は、どこか二人とも水面ちゃんに面影が似ていた。
「どーもー。ここの病室にいた人に面識とかあったんスか? あ?!」
石谷くんは、二人にニッコリと話だしてから、突然に顔を真っ赤にして照れだした。頭を片手で掻きだす。
とても、綺麗な二人だったんだ。
ぼくも離れたところでも、どぎまぎした。
「え? どちらさまでしょうか?」
「あ、ねえ? 後ろにいらっしゃる方が秋山 陸さんって人? でしょ?」
「へへっ……俺は……。俺のことは無視なのかい……」
その女の人たちは、話し掛けた石谷くんをまるで見ていないかのように、ぼくの方へスタスタと歩いて来てしまった。
「初めまして、私たち。水面 空ちゃんのとても遠い親戚なんです。
「初めまして」
と、伊織さんは頭を丁寧に下げるけど、妹と呼ばれた猪里さんは、テヘっと頭を掻きながら何やら恥ずかしそうにしていた。
「え?! 水面ちゃんの? 親戚の方?」
ぼくの顔はだんだんと熱を持った。
「そうなのです。私たちマレーシアに住んでいたのですが、大きな家で、猪里が郵便箱からとある封筒を偶然見つけてくれたんです。危うく一生気がつかないかも知れない。という事態に陥っていたかもしれなかったのですが、運が良かったんですね」
「えっと。その封筒は親切な遺品整理業者が送ってくれたようで、どうやら、水面ちゃんが遺品整理業者の人に残してほしいと伝えていたようです。その封筒には、子供の頃に水面ちゃんと私たちが写っていた思い出のアルバムと不思議な鍵が入っていました。水面ちゃんのご両親は2年前に交通事故で……」
「そうなのです。水面ちゃんは、その直後に入院したんだそうです」
「……不思議な鍵……ですか? 交通事故……」
赤い顔を放置して、ぼくは考える。
いつも笑顔の水面ちゃんの過去に、そんなことが……。
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