偽テイマーはドラゴンライダーの夢を見る~その野良犬、従魔じゃなくてただのペットだよね~
うみ
第1話 どうも、初心者テイマーのヨハンネスです
プロローグ
空に悠然と静止する巨大なドラゴン。威厳あるその姿は群青と固有名がつく古代竜の一種で、その力はブレス一発で城壁を蒸発させるほど。
そんな超越した力を持つドラゴンを前に、俺の心にあるのは恐怖ではなく、胸の高まりだけだった。
灯台の屋根に立ち、真っすぐドラゴンを見据えた俺の心の中にあるのはただ一つ。
あの背に乗りたい!
これだけだった。
「わおん」
そんな俺を見てか愛する従魔の雑種犬シバが呑気に鳴く。
「俺の後ろで、ブレスが来る!」
「う、うん」
『うン』
猫耳の少女と下半身が異形の蜘蛛脚な少女が俺の後ろに下がる。
その時、古代竜「群青」の口元が光り、こちらに向けブレスが吐き出された!
「ここだ!」
飛び上がり、右拳を下から上へ振り上げると、ブレスが天へ向けて方向を変える。
このタイミングしかない!
「くも子ー!」
俺の呼びかけに異形の蜘蛛脚の少女が蜘蛛の糸束を古代竜「群青」へ伸ばす。
彼女を抱え、蜘蛛の糸束を頼りに跳躍――そして、無事、古代竜の背に着地した。
ついに憧れのドラゴンの背に降り立ったぞ! 俺は今、ドラゴンライダーへの道を一歩踏み出したのだ。
◇◇◇
第一話 どうも、初心者テイマーのヨハンネスです
俺、ヨハンネスはずっとテイマーになりたかった。長年の苦労……いや愛が実を結びついにテイマーとして認定されたんだ。
テイマーは魔獣使いとかアニマルテイマーと呼ばれる者たちのことで、モンスター、魔獣、聖獣、果てはドラゴンに至るまで様々な種族と心を通わせ、共に歩み、戦うことを生業にしている。
晴れてテイマーになれた俺はさっそく探索に出ていた。
「シバ、どんどん進もう!」
「わうん」
愛犬、いや、従魔の小型犬(雑種)のシバが尻尾をフリフリさせ、前を行く。
くうう、いいなあ、やっぱ。これぞテイマーってやつだよ、うんうん。
感動しつつ、彼の速度に合わせ奥へ奥へと進んでいく。
ここは、自然洞窟がダンジョンと化したところで思った以上に広い。当初は自然洞窟だったから、道も入り組んでいて足場も悪いったらなんのだったけど、ダンジョンに入ったら途端に地面は滑らかになって天井も同じくになった。
そうなりゃもう鼻歌混じりの散歩になるってものさ。シバもご機嫌で歩いているし。ん? 洞窟やらダンジョンの中は真っ暗じゃないのかって?
そこは問題ない。なにせ俺もシバもお揃いの暗視の魔道具を身に着けているからね。これがあれば暗いところでもへっちゃらなんだぜ。
……。空気の流れが変わった。
この先、広い空間になっているようだな。そして、僅かに聞こえる何かがぶつかる音。
「んー、無駄足になるかもだけど、せっかくここまで来たし、見に行くか」
俺がお高い魔道具を買ってまで遥々ダンジョンの奥深くまでやってきたのには理由がある。なんと、このダンジョンで二首の犬型魔獣「オルトロス」の目撃情報があったんだよ! 俺もいっぱしのテイマーとして認定されたんだ。新たな従魔と契約(お友達)になりたいと思ってね。
だけどなあ……あー、やっぱり。
ぶつかり音は戦闘音だった。
進んだ先の広場には目的の二首の漆黒の毛並みを備えた犬型魔獣「オルトロス」がいた。しかし、これまた犬型の魔獣と相対しているではないか。
こちらの魔獣は青みがかった銀色と美しい毛色でオルトロスより一回り小さいが、それでもロバに迫るほどの体躯である。
ほ、ほほう。大きさから察するにウェアウルフかな? 青みがかった銀色なんて毛色のウェアウルフもいるんだ。すんげえ綺麗だな、羨ましい。
ギリギリと歯ぎしりをしつつも、広場の様子を眺め続ける。
おっと、オルトロスとウェアウルフだけにを注目していて、この場にいるもう一人に目が届いていなかった。
オレンジがかったブラウンに黒が混じった猫耳に同じ色の髪を後ろでくくった女の子。ウェアウルフは彼女を護るようにしてオルトロスと向かい合っている。
「彼女は俺と同じテイマーか」
つぶやきつつ、足元でハッハと舌を出す従魔の小型犬(雑種)シバへ目を落とす。
ふふふ、俺にも立派な従魔がいるんだ。これまでと違うんだぜ。
猫耳の女の子が杖を掲げ、ウェアウルフがぼんやりと光り、すぐに光が消える。
「あれって、強化魔法!」
俺には魔法の才能がないから、彼女のような戦い方はできない。彼女は従魔を強化しつつ後方から支援または攻撃するタイプなのかな?
『グルアアアアアア』
一方でオルトロスが咆哮をあげ、左の口から炎を吐き出す。
ウェアウルフが敢然と前に立ち、炎を受け止めるも、プスプスと煙があがり苦しそうな様子だ。
そこへ、オルトロスのもう一方の口から炎が吐き出され、ウェアウルフがまたしても受け止める。
「きゃいん」
足元で俺と同じく様子を見守っていたシバが弱弱しく鳴き、駆け始めたじゃないか。
「シバ、二人の邪魔をしたら……」
猫耳の彼女もまた俺と同じようにオルトロスを従魔にしようとしているに違いない。彼女だってテイマーだからさ。
状況は劣勢に見えるも、まだまだ彼女とて全力を出し切っていないはず。
しかし、しかしだ!
シバがオルトロスとお友達になりたいと我慢できずに飛び出したからには俺も行かねばならん。
続いてオルトロスの炎のブレスが左右の口から同時に吐き出される。
駆けるシバを追い越し、ウェアウルフの前に割り込み、迫る二つの炎へ向け小刻みにステップを踏みながら右、左、と拳を繰り出した。
ぼしゅ、ぼしゅ。
拳に触れた瞬間、炎が消し飛ぶ。
「割り込み失礼! 新人テイマー、ヨハンネス、このまま押して参る」
どんなセリフで宣言すべきか悩んだ結果、要領を得ない恥ずかしいものになってしまった。
かああっと頬があつくくなるが、彼女に背を向けているし、ほてった頬は見られていないはず。
「ブ、ブレスが……消えた!?」
後ろから猫耳の女の子の声がするが、今は眼前のオルトロスの相手が先だ。
再び連続で吐き出された炎のブレスを左右の拳で打ち払い、オルトロスの首元に潜り込む。
彼女がオルトロスを従魔にしようということは重々理解している。ならば、俺の行動はこうだ。
がしっとオルトロスの首元にしがみつき、全身で抱きしめてみた。
『ガルルルルルル』
「おー、よしよし、元気いいなあ」
炎まで吐き出しちゃってもう。これ、もう俺にぞっこんなんじゃね。
「ヨハンネスくんだったかしら。そのオルトロスは従魔にできる個体ではないわよ」
「え……」
とっても嫌そうな顔をした猫耳の女の子が無情なことをのたまう。彼女の言葉であっけにとられた俺から力が抜け、どすんと地面に落ちてしまった。
その隙にオルトロスが俺から離れ脱兎のごとく逃げて行く。
「あ、あ……」
あんまりなことに変な声が出つつ手を前に出すも、既に遅い。残念、オルトロスはいなくなってしまった。
哀し気な顔になる俺に対し、女の子は右手を差し出す。
「キアラよ。助けてくれてありがとう」
「改めてよろしく。俺はヨハンネス。こっちが従魔のシバだ」
「わおん」
えらいぞお、シバ。元気よく挨拶できたじゃないか。尻尾フリフリのおまけつきだ。
なにやら、猫耳の女の子――キアラの顔が引きつっている気がするが、あ、そうか!
「君の従魔は大丈夫?」
「た、ただの雑種の犬が、従魔なわけ……え? うん、ウェアウルフならあなたのおかげで大した怪我もないわ」
「おお、それはよかった。前半、何言っているのかはっきり聞き取れなかったんだけど」
「な、なんでもないわ。え、ええと、ヨハンネスくんはここに何を?」
そいつはもちろん決まっている。俺の目的はさっき逃げて行ってしまったオルトロスだ。
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