第3話 言葉にならない違和感
隣に座ることが、当たり前になり始めた頃だった。
僕の中に、小さな引っかかりが生まれたのは。
授業中、ノートを取る音や、椅子を引くわずかな振動までが、やけに気になる。
君が消しゴムを落とすたびに、拾うべきか迷って、結局何もできない自分がいた。
以前なら、そんなことで悩むこともなかったはずなのに。
休み時間、君は友達に呼ばれて席を立った。
すぐ隣にあったはずの気配が消えただけで、胸の奥が少し冷えた気がした。
近いと落ち着かなくて、離れると物足りない。
この矛盾が、僕を黙らせた。
この気持ちがなんなのかは、まだ分からない。
ただ、心のどこかで、歯車が噛み合っていない音がしていた。
「月原って陽乃さんの隣だよな?」
「え、うん、」
「いいな〜羨ましい」
彼の言っていることは、脳では理解できた。
けれど、頭ではうまく噛み砕けなかった。
何が羨ましいのか。
席が近いことか、それとも、陽乃詩織の隣にいるという事実そのものか。
もし後者だとしたら、僕はその理由を何一つ説明できなかった。
ただ隣に座っているだけで、話すことも多くない。
それなのに、誰かの言葉一つで、心が揺れる。
その揺れを、期待と呼ぶのは、まだ早い気がした。
けれど、無関係だと言い切るには、近すぎた。
僕は、自分がどこに立っているのか分からなくなっていた。
自分を見失った怖さより、羨ましいと言われて、否定できなかった自分が、
怖かった
羨ましいと言われて、否定できなかった自分が、一番怖かった。
違う、と言えば済んだはずなのに。
ただ隣に座っているだけだ、と笑って流せたはずなのに。
そうしなかった理由を、僕は探してしまった。
そして見つけてしまう気がして、目を伏せた。
隣の席では、君が何事もなかったように鉛筆を走らせている。
その横顔は近くて、でも、触れてはいけない距離にあった。
この違和感に、まだ名前はない。
ただ、戻れなくなり始めていることだけは、分かっていた。
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