第3話 朝食を切り上げて
ギターを受け取ってから帰ろうとしたところで店主に声をかけられる。
「君、もしや
「ん……?」
「憶えてないかい? いやだなぁ、臥龍岡旭だろ君! 高校の頃の同級生に
「あ、志郎。憶えてるよ」
「その父」
「ひぇ〜、世界イズスモールだぜ」
五回くらい顔合わせてるらしい。
それなのに分からなかった俺はガチのたわけ?
知るか。
俺は人の顔を憶えるのがたいへん苦手である。
きっとこのかわいこちゃんの顔も明日には忘れてる。
「君まだああいうことやってるのか」
「いけないか。誰かがやらなきゃ人は死ぬ」
「そうだね」
気がおかしくなりそうな蝉の声のしたで、久しぶりに友人のことを思い出す。そういえば志郎は元気なのだろうか。
「こんなイカれたやつしかいない所逃げ出してやる」といって東京に行ったきり話を聞いていないし、顔も見ていない。
たまには帰ってきて欲しい。
そうすれば酒が飲めるから。
「とりあえず、まぁいいや。今日は帰るよ。またいつか来る」
「いつでも来なよ」
こういう事があるから地域に密着してしまうのかもしれない。
やはり俺はイチから関係を構築するのが苦手なので、知り合いがいる地元の方がいいし、そういえば志郎には「お前は水都以外だとただのやべぇ奴だ」と言われたことがある。
なおさら水都から出られそうにない。
ギターを背中に回して、家まで徒歩で帰宅。
次の日、寝ぼけ眼で夜中に食う鍋を仕込み、そしてテレビを見ながら朝食に茶漬けを食っていると浜田さんから呼び出しのメール。
水都県警本部までカモンという。
俺はすぐに朝飯を中断し、ギターを背負い家を出る。
ガレージに停めてある愛車の「ダイス号」は黒いボディに真っ赤な目の高機能バイクである。
このマシンは母が俺に遺したもののうちのひとつだ。
黒いダイスに乗り、すぐに水都県警本部まで向かう。
俺の家は水都県
到着すると、入り口のところに浜田さんの姿を見た。その他にも人間がいる。どうやら今日は聞き込みがあり、その解散をしたところらしい。
そしてその後ろには刑事もいる。
「どうも」
「君が臥龍岡旭さんか。どうも、私は捜査一課の
「どうも、どうも。まさしく私は臥龍岡旭です」
今日はどういう訳で呼ばれたのか。
「簡単に言ってしまえば君と奴等の関係だ」
「奴等?」
「君は知っているだろう、〈
「ああ。小さい頃に攫われたことがあるんです。母も彼らに殺された。というかこのくらいの情報ならあんた警官さんなら調べられるだろう」
「確かにそうだが、そうか。君が臥龍岡旭か」
「なんだい、含みのある」
「彼らの所持品に君のことを指しているだろう文言がいくつか見つかっていた。『十三年前に誘拐し、身体改造を施した子供が今になってやたらと自分たちの活動を邪魔をしてくる』……ってね」
「ふぅむ……自業自得だとは思えんか……」
俺は心底奴らを疎ましく思った。
「他には何か?」
「君に施されたという身体改造とは?」
「簡単に言えば、開かれて閉じられただけだ。何もされてない。病院の診察記録なら町田病院にあるかもしれないな」
「なるほど、ありがとう」
これ現地まで来なくてよかったじゃん、と思った。
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