第11話 月光

 黄巾こうきんらんが収まったことを祝して、朝廷は光和こうわ七年(184年)の十二月に改元かいげんを行い、中平ちゅうへい元年とした。

 しかし天下を揺るがした動乱の爪痕は凄まじく、その後も各地で小規模な反乱が頻発。乱の収束後も自らの定住する場所を失っている者は各地に結集して、独自の勢力圏を作り上げた。

 このような情勢下でも朝廷内での権力争いや民への圧迫はむことを知らず、世は荒れるばかりになったのである。

 

 顔良がんりょうは変わらずに堂陽どうようで次兄のしゅくと家の田畑を耕す生活をしていたが、城の手前に駐屯していた時の、あの老兵の言葉が忘れられなかった。

──必ずや、爪を研いでいたものが起つ

 これからそうなったならば。すなわち国のからだが崩れ去るような事態が起こったならば、自分はどのような行動をするべきなのだろうか。

 夕刻になって畑仕事を済ませ、家に帰って座しているときにはいつもそのような自問自答を繰り返していた。

 家を出て自分も放浪してみるか、碩学せきがくの門下に入って教えを授かるべきなのか、田畑を耕して平穏となるのを待つのか、それとも自分もいっそ賊となってみるか。

 放浪をしたならば野垂れ死にをするだけだろうし、教えを授かっても生かせる場所がない。田畑を耕しても既に賊が多くいる以上は平穏を望めないし、賊となってしまうのは信義に外れる行為である。

 辺りがすっかり暗くなって月の明かりが窓から見えた時

──こんな人は出てこないのだろうか

と淡く思った。

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