第5話 楽しい夕ご飯と強敵の登場です!!
会議が終わったあと、わたしたちは医務室に足を運んで星野君たちの様子を見ることにしました。肉体治癒装置のなかに入れられた星野君たちは瞼を閉じています。
巨大な水槽にも似た肉体治癒装置のなかは緑色の液体で満たされ、ムースさんの話によりますとこの液体が傷を回復させる効果があるそうなのですが、詳しいことはわたしにはわかりません。ガラスをそっと撫でて祈ります。
「どうか星野君と川村君が早く目覚めますように」
地球の平和のために貢献したのですから、ふたりだってきっと安心してヒーローショーを見たりカレーパンを食べたいはずです。
彼らのためにもまずは地球に蘇った悪い人たちを地獄に送り返さないといけません。
ぐっと拳を固めて誓いますと、わたしのお腹がぐうっと鳴ってしまいました。
「すみません……」
「美琴様、お腹が空いたのですわね」
「さっきビーフシチューを食べたばかりなのですけれど」
「お腹が空くのはいいことですわ。さっそく何か食べにいきますわ!」
ムースさんに連れられてわたしと李さん、エリザベスさんは医務室をあとにすることにしました。
何か食べに行こうとなりましたけれど外食もいいけれど家で食べたほうがいいという方向にまとまりましたので、わたしたちのアパートで食事をすることになりました。
わたしとムースさんが同棲しているアパートは築50年と大変古く、冷房もついていないのですけれど、それなりに住み心地はいいと思っています。
さっきはムースさんと李さんにご馳走になりましたので、今度はわたしがということでいつものようにおにぎりを作ります。お米を空気を含ませるようにしながら軽く握ります。あまり強く握るとお米が潰れてしまって固い食感になってしまうこともあるのです。
単純で奥が深いおにぎりの道。わたしはまだ初歩だと思いますけれど、それでもみなさんが喜んでいる顔を想像しながら握りました。
「おまたせしました!」
大きなお皿に握ったおにぎりを山のように乗せてもっていきますと、みなさんの目が輝きました。
「いただきます」
「どうぞ。召し上がってください」
みなさんがおにぎりを口に運びます。緊張の一瞬でわたしは唾を飲み込みました。
「やっぱり美琴様のおにぎりは絶品ですわ~」
「美琴のおにぎりを食べたら他が食べられませんね」
「すっごくおいしいよ」
「ありがとうございます!」
おいしいと喜んでもらえるのはやはりとても嬉しいです。
いつかおにぎり屋さんを開くのもいいかもしれないと思いながら、わたしも便乗して食べます。適度にお塩がきいていて海苔もパリッとしていて、食感も軽めなのでいくらでも食べられそうです。やっぱりたくさん作っておいて正解でした。
「おいしいですっ! おいしいですっ!」
気づいたらいつの間にかお皿は空になっていました。
「もしかして、全部わたしが食べてしまったのですか⁉」
「美琴は本当におにぎりが大好きだね」
李さんが穏やかな微笑を浮かべています。
その顔は本当に美しくて思わず見惚れてしまうほどですけれど、みなさんの分も残さずにわたしが全部食べてしまったなんて、とても恥ずかしいです。
「もうちょっと作りますから待っていてくださいねっ」
慌てて椅子から立ち上がっておにぎりを作り始めましたけれど、結局二合ほどひとりで食べてしまいました。
すこし早い夕食も楽しく終わって、エリザベスさんと李さんは帰っていきました。
「寂しくなりますわ~」
「きっとまたすぐに会えますよ」
「だといいのですけれど」
わたしは寂しそうなムースさんをぎゅっと抱きしめました。
「今日はわたしと一緒にお風呂に入りましょうか」
「本当ですの⁉ 嬉しいですわ~」
大喜びするムースさんの頭を優しく撫でてあげます。
天使のような笑顔を見せるムースさんは本当に愛らしくて、彼女が多くの人から好かれるのも当然だと思いました。
仲良くお風呂に浸かって、わたしたちは夢の世界へと旅立ちます。
☆
一体どれぐらい眠っていたのでしょう、目が覚めたわたしにジャドウさんから念が送られてきました。
『いまから2時間後に敵が襲来しますぞ』
ジャドウさんはきっと占いで予言を行ったのでしょう。彼の予言は確実に当たりますので指定された場所に戦闘服を着てムースさんと一緒に足を運びます。念を受けて李さんとも合流します。でも、昨日ジャドウさんは絶望の天使が地球に訪れるのは一か月後と話していたはずなのですが、事情が変わったのでしょうか。疑問が浮かんでいますと、上空にひとりの人物が浮遊していることに気が付きました。浮遊自体はスター流のメンバーだけでなくとも可能ですのでそれほど驚くほどでもありません。その人物はゆっくりと地上に降り立ちました。緩く束ねた銀髪が胸のあたりで柔らかく揺れています。
金色の瞳がわたしたちを見据え、額からは小さな黒い2本の角が生えています。
間違いなく人間ではありません。銀色の中華風の衣装を着ています。
「フフフフフ、久しぶりだねー」
「久しぶりと言われましても、あなたはどちら様でしょうか?」
「私は銀角(ぎんかく)だよー。忘れちゃったのかなー?」
衣服から鋭い爪の生えた真白い肌の細腕が覗いています。銀角という名はどこかで聞き覚えがあるなと思っていますと、李さんが一歩前に出ます。
「またボクに倒されにきたのかな」
「私はあれから人間の怨みや妬みや劣等感を吸収してパワーアップしたんだよー。
今度は前見たいにブランクもないから好きなだけ遊べるよー」
ふたりのやりとりを聞いてやっと思い出しました。
数百年前にスターさんが封印していたという妖怪さんで、最近復活して李さんに倒されたのですけれど、間を置かずに復活を果たしたということでしょうか。
彼女は掌から青紫のエネルギー弾を放ってきましたので、慌てて回避します。
「私と一緒に遊ぼー」
口調は無邪気なのですけれど、戦いを遊びと考えているところが既視感があるなと思っていますと、ムースさんの顔に残忍な笑みが宿りました。
「そんなに遊びたいのでしたら、わたくしが遊びつくして破壊して差し上げますわよ」
ああ、こうなったムースさんは誰にも止めることはできないのです。
普段はわたしを大好きだと言っているムースさんですけれど、ひとたび戦闘が始まると血と悲鳴を求めて残虐の限りを尽くす姫になってしまうのです。
わたしは李さんと共に彼女たちから距離を置いて観察をすることに決めました。
「ここはムースさんに任せましょう」
李さんも短く頷いて認めました。
周りに被害が出てはいけませんからジャドウさんに頼んで魔法陣でリングを出現させました。三本のロープと白いマットの格闘場でふたりの一騎打ちの幕が開きます。
一旦リングに上がったらタオルを投げるかムースさんがギブアップするかしない限り止めることはできません。仮に戦闘で命を落としても仕方がないところが、スター流の厳しいところです。わたしたちにできるのは応援だけですけれど、ムースさん、頑張ってください。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます