第9話 February(9)
一方、ひなたは。
納得いかない
納得いかない
納得いかない
ずっとそればかり考えていた。
「明日、渡せばいいじゃない。高遠くんも忙しいんだから、」
ものすごい形相の娘を見てゆうこは思わず声をかけた。
「今日じゃなくっちゃ意味ないでしょ! え? こんな日にピアノ以外の用事ってなによ。 ま、ピアノのことはさ、しょうがないなって思うけど! だいたい男だって2月14日がどういう日だってわかってんじゃん。 それなのに!!」
「そんなこと勝手に言っても・・」
ひなたはバンと立ち上がった。
「パパの会社、行ってくる。」
「はあ?」
ゆうこは意味がわからず、唐突な娘に呆れた。
「んで、仕事終わったら一緒にみーちゃんちに行ってもらって・・絶対に今日中に渡す!」
「もー、そんなことで会社になんか行っちゃダメ。」
「邪魔しないから! パパが一緒なら、遅くなってもいいでしょ?」
もう支度をし始めた。
「もー、なんなのよ・・いったい・・」
わが子ながらひなたのまっしぐらな性格が手におえなかった。
「だからっ! おまえが来るトコやないって! ここは!!」
志藤の娘と名乗って、堂々と秘書課の隅の応接イスに座っているひなたを外出から戻った志藤が発見し、さすがに怒った。
「絶対に今日中に渡すんだから、」
ひなたは大事そうに小さな紙袋を抱えていた。
「はー、フラれたんか。 あはは、」
志藤はワケを聞いて、蔑んだように笑った。
「ふ、振られたとかじゃなくて! なんか今日隙がなくて渡せなかったの! せっかく作ったのに、ななみがなるべく早く食べてもらった方が美味しいって言うから!」
「んで、ここに来る意味がわからん!」
「だから、パパが仕事終わったら一緒にみーちゃんち行って欲しいと思ったの!」
「おれは関係ないやろ!」
「んじゃあ、勝手にあたしひとりで行ってもいいの? 遅くなってみーちゃんとこ泊まらせてもらっちゃったりになるかも・・」
上目づかいで父を見る。
「くっ・・計算か! アタマ悪いくせにそういうことだけ頭回るのがほんまに腹立つなっ!」
なんとかコンサートには間に合った。
「わー、サイコーの席。 ど真ん中。」
律は嬉しそうにはしゃいだ。
CDやDVDでは何度も彼のピアノを聴いた。
しかしライブは初めてで、奏は少し緊張していた。
そしてふっとライトが落ちて、幕が上がる。
「もー、なにそれ~~~。」
外出していた南が戻ってきたのはもう7時過ぎだった。
「だって悔しいんだもん! みーちゃんちで待ってていい?」
もうひなたの前のめり加減に気圧された南だったが
「今日、コンサート行くから遅くなるって言うてたよ、」
やや遠慮気味に言った。
「コンサート・・?」
意外な言葉にひなたのテンションは一気に下がった。
「設楽啓輔の。 なんかさくらちゃんとこで一緒にレッスンしてる子から誘われちゃったんやって、」
この微妙な理由。
ひなたと志藤は固まった。
しかし。
「そんなこと。 ひとことも言ってなかった、」
ひなたはボソっと言った。
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