第7話 February(7)
バレンタインの前日。
ようやく。
「できた~~~、」
ひなたは冷蔵庫から出したチョコレートを愛おしそうに見つめた。
そして、ひとつ手にしてパクっと食べた。
「おいし~~! すごーい!」
ひたすら自画自賛したのだが
「おいしい~!はいいけど。 ちゃんと後片付けもお願いね、」
ゆうこはチョコやココアパウダーがとっちらかったキッチンを見てウンザリとして言った。
しかし生まれて初めてチョコレートを作ったひなたはそのデキと
明日奏にこれをあげたら喜んでくれるかな、とかいろんな想像をしてニヤニヤと笑うばかりで母の声は聞こえていないようだった・・
「あーあ、こんなに汚してもー、」
志藤も冷蔵庫にビールを取りに来てあまりにも散らかった様子に顔をしかめた。
「あ、パパ。 余ったから。 あげる。」
きれいにパッケージした後、ひなたは何の罪もない笑顔で父にひとつ差し出した。
「余ったから・・」
思わずムッとしたが無理矢理口の中に入れられた。
「おいしいでしょー。 ママに手伝ってもらわなくて、ひとりで作ったんだよ? すごくない?」
もう
何センチが宙に浮いているかのように浮かれていた。
志藤の願いに反してめっちゃ失敗しなかったので、そこそこ美味しく
それも悔しいのだが
この娘にかける言葉も出てこず、志藤は眉間にしわをよせたままさっさとビールを手にして出て行ってしまった。
これまで
モテモテだったにも関わらず、特に男子に興味があったわけでもなく
あたしのこと好きでもいいのよ?
みたいな感じで全くもって相手にしていなかったというのに。
志藤はひなたが少しずつ変化していっているようで
気が気ではなかった。
しかも。
奏は、普通にいたら
全く非の打ちどころのない好少年なので
文句のつけようもない。
お互い好きだったら勝手につきあえばいい、とわかっていながらも
いちいち胸がモヤモヤする。
翌朝。
ひなたはチョコが崩れないように途中で信号が変わりそうになって走り出そうとしてやめたりしていた。
喜んでくれるかなあ。
もう昨夜からそれしか考えていなかった。
やっぱ。
渡すなら放課後だよね・・
今日はピアノのレッスンの日じゃないし。
少しはゆっくりできるかも。
おかげでその日の授業はほぼ上の空だった。
そして。
奏が帰り支度をしているところに
「ね、たまには一緒にかえろ、」
ひなたはいつもより少し恥ずかしそうに寄ってきた。
「え、」
奏は少し驚いたように瞬きをした。
「ほら、だってさー、今日は・・」
ひなたがもったいつけて切り出すと、
「ごめん! 今日ちょっと・・約束があって、もう帰らないと・・」
思わぬ返事が彼から帰って来た。
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