朝の庭と詩人の瞳

王宮の中庭。

朝露がまだ葉に残る時間。

セラは、石畳の端に腰を下ろし、詩帳を開いていた。


その向こう、剣を手にしたレオナルドが現れる。

セラに気づくと、足を止めた。


「……またつけてきたのかよ。」


その声は相変わらず冷たい。

セラは立ち上がり、静かに一礼する。


「偶然です。」


「偶然ね。こんな朝早くにここで何をしようとしてたんだろうな?」


セラは答えず、詩帳を閉じた。

レオナルドはため息をつき、剣を鞘に収めた。


「いいか。昨日のことは誰にも言うんじゃねえ。わかったな。」


低いドスのきいた声がセラの耳元に直接響いた。


「なぜですか。」


セラの言葉にレオナルドはセラから身を離す。


「王太子様はなぜ隠そうとするのですか?剣技の鍛錬を。」


「なんでもだ。おまえには関係ない。」


「そうですが…」


セラが言いかけたそのときだった。

風が、妙な音を運んできた。


“カサリ”


ふたりの視線が、同時に庭の奥へ向いた。

誰もいないはずの植え込みの向こう。

だが、確かに何かが動いた。


レオナルドは即座に剣に手をかけた。

セラも、わずかに身構える。


「……誰だ」


返事はない。

ただ、風が通り過ぎる音だけが残った。


「……気のせいか?」


「いいえ」


セラの声は低く、確信に満ちていた。


「誰かが、見ていました。」


レオナルドはセラを睨んだ。

その目には、疑念と警戒が混ざっていた。


「……どうしておまえにそんなことがわかる?ただの宮廷詩人のはずだろ。」


セラは何も言わなかった。

ただ、空を見上げていた。

その瞳に映るのは、雲ひとつない青空。

けれど、その奥にある“影”を、彼女は確かに感じていた。

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