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休日の午後、帰って来て時の癖。鏡を見て自分の顔を確認する。見るのはほぼ目元。目の周り。とろりと滲んだアイシャドウと、だまが見える様になったパウダーファンデを確認する。

化粧を初めてからよくやる癖になったのだが、今更ながらある事に気が付いた。


「私ってさぁ、タレ目なんだね」

風呂上がり、全ての色を落として、リビングの床に腰掛けた女はただ淡々とそう言った。

俺からしたら『今更なにを?』である。頻繁に女、鏡花の目を見るが、やや切れ長のアーモンド型。目尻は深い切り込みがあり、其れは下がっている。

やたら滅多に客観視したがる癖に、自分の事になるとややズレた回答を述べる。

「目付き悪いから、ツリ目なのかと」

「目付きの悪い奴が全員ツリ目だと断定するな」

らしくもない。

すると鏡花は目尻の窪んだ部位を指で触れ、軽く擦る。どうやら本当に疑っている様だ。

こうして疑う癖があるからこそ、ある程度は信頼しているのだが。

「化粧ってさ、基本的には、基本的にはだよ? 自分に合わせた方が上手く行くのね。色も形もそう。だから、タレ目な人がツリ目に見せるにはそれなりの技術が必要。

まぁだから、ある程度自分の外見を知らなくてはならない」

其れはそうだろう。化粧するのに鏡が必要なのは、何も上手く塗れているか確認する為ではない。本当に自分に合っているか確かめる為でもあるのだろう。

すると鏡花は無邪気な丸を描く目を、しんしんと冷たくさせて、ただ淡々と言った。

「自分が老いるのに耐えられないんだよ……。特に外見に気を使う人は」

筋は通っている。けれどもその哲学に飛ぶのには、やや思考が飛躍している様に思えてしまう。

鏡花も其れには気付いたのだろう。また口を開く。

「私は年老いてからも常に重要視されるもの、深みが増すものは、思考と知恵と品格だと思っている。其れが伴って居ないと、相手から軽んじられてる。そう思っているから。

でもそれよりも外見的な美しさに重きを置く人は、今上げたものを差し置いて、外見を重要視する。きっと私以上に鏡を見ているし、自分の顔の造形には過敏に反応する。

けれども老いると、若い時と同様の外見の美しさを保つ事はほぼ出来ない。保とうとするには今まで以上の金と時間と労力ある。

……大抵の人は其れに耐えられない。どれだけコストを掛けても、もう戻れない。其れをただ突きつけられるから。途中で折れてしまう。覚悟ないと無理。

まぁだから、私は比較的楽な道を進んでいるんだよ。これを賢いと言うべきか、覚悟足りてないって思うは人それぞれだけどね」

鏡花の特性。万人を見下している。特に上辺だけしか見ない思考の相手には、かなり容赦のない線引きを行い、冷徹な物言いをする。

けれども同様に、同じくらい見上げ、敬意を払っている。自分の出来ない事に関しては、ただ黙って頭を下げ、負けを認める。

「私はまだ、覚悟完了してないよ」

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