魔法少女がレジスタンス

@TK83473206

プロローグ  管理された未来は、弾ける

 ――三秒後、左上。


 映像の“断片”が、脳裏に差し込む。

 いつもそうだ。映画みたいに長くは見えない。せいぜい数秒、長くても数分。しかも「絶対」じゃない。いちばん起こりやすい未来が、勝手に再生されるだけ。


 だけど戦場では、それで十分だった。


「雷班。合図で《回路殺し》を撃て」


 俺の声は、通信機越しに冷たく響く。

 感情は後回しだ。今は計算を優先する。


 都市の上層――高架の影に立つ“管理級”魔法使いが、手を掲げた。

 空に幾何学模様が浮かび、巨大な魔法陣が組み上がっていく。あれが完成すれば、周囲一帯を包む広域結界になる。


 魔法使いは、才能があれば誰でもなれる。

 熟練度が上がれば、たいていのことができる。

 だから彼らは慢心する。


 自分が、止められるはずがないと。


 ――未来は言っている。あと三秒で結界が完成する。


「今」


 紫電が走った。

 だが、ただの雷じゃない。


 魔法少女の雷属性を“弾丸”に加工した兵器――

 魔力干渉拘束装置MIR(マギ・インターフェア・リガー)


 通称、《回路殺し》。


 狙いは身体じゃない。

 魔法使いの内側にある“魔力回路”――魔法を成立させるための、目に見えない配線だ。


 魔法は奇跡じゃない。現象だ。

 回路が一定のリズム(位相)で動き、外部の魔力場と接続して、出力を現実に変換する。

 つまり逆に言えば――そのリズムを乱せば、魔法は“繋がらない”。


 《回路殺し》は、雷の出力で押し潰す兵器じゃない。

 位相をズラすノイズを撃ち込む兵器だ。


 魔法陣が、完成直前で歪んだ。

 ガラスにヒビが入るみたいに、線が乱れ、結界が「成立しないまま」破裂する。


「……な、なにをした!? 予測と違う……!」


 管理級魔法使いの声が、上ずった。

 予測できない。対策もない。

 なぜなら魔法使いは、自分たちの魔法を“理屈”で理解していないからだ。


 俺は次の断片を見る。


 ――一・二秒後、火属性で反撃。面制圧。

 ――同時に足元を崩し、距離を取る。


「風班、退路遮断。岩班、遮蔽。水班、冷却準備」


 魔法少女たちが動く。

 彼女たちは“少女”というより、訓練された兵士だ。


 魔法使いは一人で戦う。

 万能だから、全部自分でやろうとする。


 魔法少女は違う。

 彼女たちは「できることが限られている」からこそ、分業して強くなる。


 前衛が一気に距離を詰める。

 身体強化は魔法使いに劣る――けど、外骨格で補っている。

 関節に仕込まれた駆動と、強化魔法の出力を“効率よく”地面に流し込む。無駄が少ない。


 火属性が爆ぜる。だが視界が、白く霞む。


「水、冷却!」


 水の魔法が熱を奪い、火の広がりを削る。

 完全に消す必要はない。詠唱を続けられない温度に落とすだけでいい。


「念動、詠唱阻害」


 不可視の力が、魔法使いの喉元と手首を捻る。

 力そのものは大したことがない。魔法使いの身体強化には届かない。

 けれど“詠唱”は繊細だ。


 言葉の順番が狂えば、式が崩れる。

 指が震えれば、接続が切れる。


 魔法使いは万能だ。

 だが万能であるがゆえに、一手が重い。


 俺は未来を見る。

 次の断片は、こう告げた。


 ――二秒後、魔法使いが回路を立て直す。

 ――その瞬間を逃すと、こちらに被害が出る。


「雷班、二発目。起動点は胸じゃない。左肩の上、空間に撃て」


 魔力回路は体内にある。

 でも“接続”は体の外にも伸びる。

 なら、接続点にノイズを叩き込めばいい。


 紫電が空間を裂き、干渉場が弾けた。


 魔法使いが膝をつく。

 痛みで顔を歪め、吐き気を堪えるみたいに喉を押さえた。回路が逆流している。


 倒れた。

 息はある。殺してはいない。

 でも、戦闘は終わった。


「制圧完了。負傷者、報告」


「前衛一名、軽傷」

「大丈夫です」

「次の魔法反応、なし」


 市街戦は、五分で終わった。


 ……頭が痛い。

 未来を覗く代償だ。視界の端がにじむ。


 それでも俺は、倒れた魔法使いを見下ろして、思う。


 この社会は、完璧だ。


 魔法使いがインフラを維持し、治安を管理し、資源を最適化する。

 犯罪は未然に検出され、逸脱は“矯正”される。


 だが――完璧だからこそ、止まっている。


「文明が……死んでる」


 俺は、この世界の人間じゃない。

 ある日突然、異世界に落ちてきた、理数系が少し得意なだけの男だ。


 魔法の才能は、ゼロ。


 この世界の価値基準では、無価値。

 保護すらされない。


 でも、俺には一つだけ確信がある。


 魔法は奇跡じゃない。

 現象だ。

 現象なら、言語化できる。

 言語化できるなら、再現できる。

 再現できるなら――


 技術になる。


「次は、もっと効率を上げよう」


 通信の向こうで、魔法少女たちが笑った。

 疲労も恐怖も飲み込んだ、戦場の笑い方だ。


 管理された未来は、脆い。

 予測できない意思と、引き継がれる技術に弱い。


 俺は帰れるかどうかも、わからない。


 だから決めた。


 帰れなくても、生きられる文明を作る。


 そのためにまず――

 この完璧な社会を、壊す。

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