第5話 忌み子は王城に呼び出される
スタンピードが起きてから数日後。
街への被害がほとんどなかったおかげで、街の人々の恐怖も徐々に薄れていた頃。
私は今、ギルド長とともに王都――王城の中でも特に豪華な応接室に座っている。
まぁ……あんなド派手に魔術をぶっぱなしたのだ。
遅かれ早かれ、こうなることは分かっていた。
「はぁぁ……やっぱり、暗殺者のように陰に潜んで討伐すべきだったかも」
『忌み子』とはいえ、一応隣国の元第三皇女。
自分の出生を考えれば、もう少し控えめに立ち回るべきだったのかもしれない。
身体強化魔術と認識阻害魔術、氷魔術を組み合わせれば、暗殺者のように魔物を静かに討つこともできたはず。
「そう思うなら、最初から討伐隊に入ればよかったのだ」
「……すみません、ついカッとなって勢いでやってしまいました」
「なんだ、その言い訳は」
はい、おっしゃる通りです。
「アハハハッ、本当に後悔するなら、討伐隊に入って一緒に魔物討伐すれば良かったのに」
「ヴィルハルト殿下!」
「っ!」
ギルド長の声に反応してふかふかのソファから立ち上がると、部屋の入り口には護衛騎士を従えた、金髪碧眼の青年が立っていた。
あの人――スタンピード発生時に討伐隊を指揮していた人物。まさか、本物の王子だったなんて……!
そして、頭の中が一瞬で混乱する。
『ヴィルハルト』……ゲーム内で“腹黒王子”と呼ばれていたヴィルハルト!?
私が熱中していたVRMMO『アンノウンワールド』のメインストーリーでは、リアリンツ国の第三王子として、プレイヤーを巧みに利用する腹黒キャラだった。
なのに、どうして現実世界で、しかも国境の街で討伐隊を率いていたのか……うん、理解したくもないし聞きたくもない。
笑みを浮かべたヴィルハルト様は、私とギルド長の座るソファの向かいに悠々と腰を下ろした。
「まぁ、かけなよ……って、その前にサリドマ殿」
「はい、何でしょう?」
へぇ、ギルド長の名前って『サリドマ』っていうんだ。初めて知った。
「父上が急ぎ、サリドマ殿に聞きたいことがあるそうだ。そこで、そちらの騎士と一緒に謁見の間まで来てくれないか?」
「は、はい! サティナ、くれぐれも失礼がないように」
「わ、分かっております!」
えっと……私、冒険者として活動しているのに、なんだかギルド長に誤解されている気が……。
ヴィルハルト様に促され、ギルド長が騎士と共に部屋を出ていくのを見届けると、王子はすぐに人払いをした。
ううっ、二人きり――気まずすぎる。
「さて、邪魔者はいなくなったところで」
何か、聞いてはいけないことが耳に入ってきた気がする。
笑みを深め、真っすぐ私を見つめるヴィルハルト様。
「さて、冒険者サティナ……いや、隣国の第三皇女『サティナ・リ・ヘルヴェニア』殿」
「は、はい……」
正確には“元”第三皇女だけど、そんなことは今は言えない。
「辺境での君の活躍は、よく聞いているよ。いや~、『忌み子』として囚われていたとは思えない働きぶりだね。偏りが酷いヘルヴェニア皇国が、君のような優秀な人材を手放したのか……理解に苦しむくらいだ」
「あ、ありがとうございます……」
「それに、先のスタンピード。あんな高度な認識阻害魔術を使いながら、広範囲の氷魔術を使えるなんて……さすが、『魔の森の守り人』だね」
「うっ」
まさか、その二つ名が遠く離れたこの王都にまで届いていたなんて。
恐縮している私の前で、ヴィルハルト様の笑みが更に深まる。
「そこでなんだけど……僕の婚約者になってくれない?」
「……えっ?」
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