桃太郎

 昔むかし、あるところにサルがいた。


 サルは、かつて所属していた群れから離れ、川のそばで1匹のみで暮らしていた。




 ある日、サルは身を清めるべく、川へ水浴びに行った。


「昔は治療で稼いだ金を使って、スーパー銭湯にさんざん行っていたもんだが、なんだかんだこの冷たい水浴びが、いちばん心が洗われてる気がするねぇ」



 サルはかつて、人間を相手に医療行為を行うれっきとした医者であった。


 しかし、自分よりも若くて優秀な同僚に嫉妬した末、あらゆることに疲れてしまいつい数年前に野生に帰ったのだ。



 それはさておき、サルが水浴びをしていると、川上かわかみから大きなモモが、どんぶらこ、どんぶらこと流れてきた。


「おお!なんと巨大な桃だ!これなら数か月は食うのに困らないねぇ!よし!さっそく回収だ!」


 こうしてサルは、全力を振り絞ってなんとかモモを回収し、自分の家に持ち帰った。 


 なお、サルの家は退職金を使って建てられたそうな。


 

 帰宅後、サルはモモをひとかじりした。


 すると、なかから産声が聞こえた。


「この声は……!」


 サルは、その声に聞き覚えがあった。


 いな、何十回も効いたことがあった。


「間違いない、この桃の中には、人間の新生児がいるねぇ……」


 サルは決意した!


 桃の中にいる新生児を、早急に取り出すことを!


「緊急オペ、開始だ!」


 サルは手術用のメスを使い、中の子を傷つけぬよう、慎重にモモを切り裂いた。


「モモの中にいた点と、モモと胎盤のようにつながっている点以外は、人間の赤子そのものだな……ならば、人間の赤子と同じ措置をしておこう」


 そして、中にいる人間と思わしき新生児を取り出した後、新生児とモモの間にあったヘソの緒を専門的な処置のもと、切断した。




 その後、サルは近所に住んでいたイヌやキジの助けを借りつつ、人間(男の子)を育てていった。


 人間はサルから医療を、イヌからお宝探しのコツを、キジから急所を狙って攻撃するコツを教わりながら、無事思春期を迎えることになった。


 なお、人間には「ニンゲン」以上の名前は付かなかった。


 生活圏に他の人間がいない以上、個人名が必要なかったからである。


 


「父さん、俺は父さんやイヌさん、キジさんに育ててもらったお礼がしたいです。だから、今から恩返しの準備をするための旅に出たいです」


 ある日、ニンゲンはそう言って、旅立とうとした。


「ちょっとまてニンゲン!なぜそのような旅に剣が必要なのだ!オマエ、さては何かやましいことをして金稼ごうとしていないか!?」


「誤解だ父さん!あと、具体的な旅の内容を話さなかった俺が悪かった!いまから全部言う!」


「さすがは私の息子、物分かりが良すぎるねぇ」


「俺はただ、川の上流の方にある村から金品財宝を奪った鬼を懲らしめた後、その財宝を元の持ち主に返した後、その見返りとして報酬を貰おうとしていただけだ!」


「ずいぶんと回りくどいねぇ!まあ……悪い案ではないと思うがね。それならむしろ賛成だよ」


 サルは狙いがあった。


 いずれ、ニンゲンに人間社会を触れさせた後、本人が望むなら人間社会に帰らせてやろうと。 


 人間界とのファーストコンタクトが「鬼から奪われた金品財宝の返還」なら、人々も好印象で彼を受け入れるだろう。


「ただ……オマエだけでそんな危険なことをさせるのは親として心配だから、私もついていっていいかい?」


「うん!父さんがいれば治療的な意味で心強いし、いいよ!」


「あと、できればイヌやキジも連れていきたいんだけど、いいかい?」


「もちろん!」


 こうして、ニンゲンはサル、イヌ、キジと共に鬼退治に出かけたのであった。


 


 鬼ヶ島につくまでは、様々な出来事があった。


 イヌが船酔いしたり、キジが船酔いしたり、サルが船酔いしたり、ニンゲンが船酔いしたり……


 彼らはそのたびに、サルやニンゲンのアドバイスのもと適切な措置をとり、なんとか生き残った。


 そして、ついに彼らは鬼ヶ島に上陸した。



 そこから先はもう、すごかった。


 ニンゲンとキジが剣やクチバシを使い、一斉に襲い掛かってきた鬼の急所を次々と破壊して戦闘不能にしていったのだ。


 そして、ついに鬼は最後の1人になった。


「倒し方がちょっと卑怯とはいえ、よくぞ我が軍勢をここまで削ったな人間よ!あっぱれだ!名を教えろ!」


「ニンゲン、それが俺の名だ」


「え……その……種族名じゃなくて……キミ自身の名前。ホラ、○○太郎とか、○○次郎とか、そういうの」


 鬼の大将が想定外の答えに困惑する。


「ああ、個人名ね。俺、そういうの持ってないんだわ」


「噓だろ?!オレさまですら「ウラキ」という個人名を持っているんだぞ!オレさまにふさわしい相手になるためにも、さっさと個人名持てや!」


「ニンゲン、オニの言うことはもっともだ。私も人間社会に居た頃は『パシモン』と名乗っていた。オマエも遅かれ早かれ、個人名を名乗らねばならない」


「……わかったよ、父さん。じゃあ俺、今から名乗るね!」


 そう言うとニンゲンは今まで育ててくれた3匹への恩を胸に抱きながら、ゆっくりと剣を構えた。


「俺は、桃から生まれ、サルやイヌやキジによって育てられた!だから、俺の名前は!」


 ニンゲンが鬼に向かい、思い切って飛び掛かる!


「猿犬雉太郎だああああああああ!うりゃああああああああああ!」


 そして、鬼の両目を思い切りスラッシュしたっ!


「うぎゃあああああああああああ!オレさまの予想とちがあああああああああう!」


 ウラキは数分苦しんだのち、動かなくなった。


 直後、サルと猿犬雉太郎の診断により、ウラキの死亡が確認された。


 死因は痛みと予想外の名前によるショック死であった。




 その後、個人名を得た猿犬雉太郎は住人が一人残らず静かになった鬼が島でイヌと共に奪われた村の宝を探し、ひとつ残らず発見。


 島から帰ってからは当初の計画どおり、返した宝の時価の1%に相当する報酬金を貰いつつ、村の宝をすべて元の持ち主に返したのであった。



 そして、猿犬雉太郎は得た報酬金を9割貯蓄に回し、残り1割を使ってサルイヌキジと共に盛大な宴を開いたのであった。




 タイトル回収できなかったけど……鬼は倒せたから、完!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る