第2話

第2話


 自動券売機の前で、立ち止まった。


 表示は明るすぎて、目が痛い。

 選択肢が多いのは、いつも良くない兆候だと思う。経験上。


 後ろに人はいない。

 それなのに、急がなければいけない気がしている。


 小銭を入れる。

 硬貨が一枚、弾かれて戻ってきた。


 拾う。

 落とした拍子で、別の硬貨も転がった。

 拾う。

 指先が少し湿っている。理由は分からない。


 画面に戻る。


 おすすめ、と書かれた枠が点滅している。

 期間限定。

 写真は、少し盛りすぎだと思う。


 前回は、温かいものを選んで失敗した。

 だから今回は、冷たい方がいい。

 そう決めたはずだった。


 だが、冷たい方のボタンは、反応が鈍い。

 一度押しても、何も起きない。


 もう一度押す。

 強めに。


 画面が一瞬暗くなり、別のメニューが表示された。

 セット。

 余計なものが付いてくる。


(……いらないんだけどな)


 戻るボタンを探す。

 見当たらない。


 代わりに、決定の文字だけがやけに大きい。


 そのまま押してしまった。


 音が鳴る。

 完了。


 紙の券が出てきた。

 端が少し折れている。


 受け取ってから、気づく。

 冷たいものではなかった。


 まあいいか、と思う。

 立ち去ろうとして、足を止める。


 券売機の横に、注意書きが貼ってある。


「本日、仕様変更あり」


 具体的な説明はない。


 厨房の方を見る。

 人はいるが、動いていないように見える。

 瞬きをしたら、少しだけ位置が変わっていた。


 番号が呼ばれるまで、少し時間があるらしい。


 壁際の椅子に座る。

 冷たい。


 膝の上に券を置く。

 番号が、読みにくい。


 周囲の音が、均一になる。

 話し声も、調理音も、すべて同じ距離にある感じがする。


(先に水、取っておけばよかったか)


 立ち上がろうとして、やめた。

 また判断を間違える気がしたからだ。


 番号が呼ばれる。

 一拍遅れて、自分のだと分かる。


 カウンターに向かう途中、

 床のタイルが一枚だけ、色が違うことに気づく。


 踏まない方がよかったのかもしれない。

 でも、もう踏んでいる。


 受け取ったトレイは、思ったより重い。

 内容は、見ない。


 席に戻る。

 座る。


 湯気が、遅れて立ち上る。


《これは、誰も生き残る必要のない話である。》


(次は、迷わないようにしよう)


 換気扇の音だけが、少し速く回っていた。

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