5話 声のトーンでハラハラドキドキ

放課後、教室の隅で私と智鶴は一緒にプリントを整理していた。


「この問題、分かる?」


私は自然に声をかける。

でも、心の中でトーンを微妙に調整する。

少し低めに、でも柔らかく。

——これで、智鶴の反応はどう変わるだろう。


彼女はちらりと私を見る。

目が少しだけ大きくなる。

その瞬間、心臓が跳ねる。


——成功。声のトーンだけで、彼を揺さぶることができた。


私はさらに計算を重ねる。

笑顔の強さ、目線の長さ、距離感。

そして今、声のトーン。

全てを組み合わせて、彼に微妙な影響を与える。


「ありがとう、助かった」


智鶴の声に少し緊張が混ざる。

その微妙な変化を聞き逃さず、私は小さく笑う。

——このハラハラ感がたまらない。


昼休みの教室でも、声のトーンを意識する。

友達に話す時も、智鶴に聞こえる微妙な距離感で、言葉を選ぶ。

彼女が振り向くタイミング、目が合うタイミング。

すべて、計算の上での心理戦だ。


——でも、胸の奥は少し熱い。

トーンを操作しても、この気持ちは隠しきれない。


放課後、廊下で教科書を落としてしまう。

智鶴がすぐに拾ってくれる。

「大丈夫?」

声のトーンは柔らかく、少し低め。


——反応を見る。


智鶴は少し息を飲んだように見える。

目が私を見て、次に視線を逸らす。

計算しているのか、それとも心が揺れているのか。

——それがわからないから、ますます楽しい。


教室を出る直前、私は声をかける。

「明日も一緒にやろうね」


声のトーンを少し高めに、少しだけ元気よく。

智鶴の目が一瞬驚く。

——やっぱり効いた。


でも、その瞬間、私の心も少し跳ねる。

操作しているつもりでも、自然に嬉しさが混ざる。

——ああ、これが恋の方程式の面白さだ。


廊下の光が差し込む中、私たちは微妙な距離で並ぶ。

声のトーンで揺れる、ハラハラする瞬間。

計算しても、心は隠せない。

でも、隠したくなる。


今日もまた、恋の方程式の中で、

私は声のトーンを使って、智鶴の心を探りつつ、

自分の気持ちも少しずつさらけ出していく。


夕日が差し込む教室で、私の声が、彼の心に小さな波を作る。

——計算と本心の境界線は、今日も曖昧なまま。

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