初めての別れ

雷鳴のみんなと別れた後

私達は荒磯亭へ行くことにした。


他の店を開拓しても良かったが

2人が、昨日私達が食べていた料理を食べたい

と言うので、連日のご来店である。


「いらっしゃいませ!あ、カオリさん、また来て下さったんですね!」


サム君が爽やかな笑顔で出迎えてくれた。

大変歓迎してくれている。


それは良い。

ありがたい。


だが、なぜ私の名前を知っている?


「こんにちは。今日もお世話になります。…あの、私名乗りましたっけ?」

「あ、失礼しました。実は今、カオリさんはこの街でちょっとした有名人になっているんですよ。『ギルドに換金しきれないほどの魔石を持ち込んだ、黒目黒髪の珍しい容姿をした冒険者』って。それで僕は、昨日ご来店下さった方のことだと思って、妹のマリンに聞いたら、きっとカオリさんのことだろうって」


……マジか。


個人情報がサラッと流出しておる。

マリンちゃん、いくら身内だからって

そんな簡単に…。


なんだか急にいたたまれない気持ちになった。


そんな私の哀愁を他所に、ヴェールとヴィータは

念願の食事を前に、テンションMAX。


席に着き、料理が運ばれてくると

2人は夢中で食べ始めた。


ただ、さすが神様というかなんというか

すごい勢いで食べているはずのに

食べる所作や食べた後の食器などは

それはそれは上品でキレイだった。


「この店うまいな。また来よう」

「そうね。カオリ、転移魔法のマーキングしといてね」


などと言いながら、まぁ食べる食べる。

神のくせに、食欲の権化だな。


一通り満足するまで食事を堪能した後

私達は店を後にした。

…もちろん、転移魔法のマーキングもした。


2人は満足したようだったが

私にはまだ欲しい物があった。


「胸当てが欲しいんだよね」


私達3人は、心臓を共有しているため

1人でもやられてしまえば

他の2人も道連れになる。


私達の体を物理的に傷つけられるものは

そうそうないと2人は言っていたが

それでも人間のさがというのは抜けないもの。


弱点はなるべく守り、隠しておきたいと

思ってしまうのだ。


防具店に入り、商品を選んでいると


「あんた、カオリさんだね?」


と声を掛けられ、サム君の話が事実である

ということを、身も持って実感した。


こちらの世界で、黒目黒髪というのは珍しいそうで

容姿のせいで目立っているということも分かった。


私としては、日本人としての証を

どこかに残しておきたくて

髪と目は、前世と同じ色にしてくれと頼み込んだ。


確かに、だいぶ渋られた。

止めておいたほうが…と言われたのだが

あの時はなぜか意地になってしまった。


こんなことになるなら

素直に言うこと聞いとけばよかった…。


この街に居づらくなってしまったので

早々に出立したい。

明日にはここを出ようと決めた。


防具屋にて、胸当てを3人分と

これ以上目立たないように

外套がいとうもフード付きのものを新調した。


宿に戻る途中で、雑貨屋に立ち寄り

揃いのアミュレットを4つ買う。


店頭に並んでいる商品には

はめ込んである魔石にあらかじめ魔法が

付与されているものと、されていないものがある。


私が選んだアミュレットは

魔石に魔法が付与されていないもの。


お店側に頼んで、魔法をカスタマイズして

付与することもできるが

そうなると、当然ながら別料金。


しかも運悪く悪質な店に当たってしまうと

魔法を付与する魔術師のレベルもイマイチで

注文通りにならないこともあるのだとか。


そのため、自分で魔法を付与できる人は

魔法が付与されていない状態で購入し

自分でカスタマイズするらしい。


私もその方法で、魔石が耐えうるギリギリまで

対物理と対魔法の防御魔法を込めた。


宿に戻り4人を訪ねると

ジンとファイも戻ってきており

私達を出迎えてくれた。


私達が明日の朝には出立する旨を伝えると

驚きながらも、みんな別れを惜しんでくれた。


先程買って、魔法を込めたアミュレットを

「お礼と再会の願いを込めて」とプレゼントすると

ジャイルとニーナは、涙を浮かべながらも

喜んでくれた。


ジンも、少し寂しそうな顔をしていたが

ファイだけは、少し呆れたように


「大袈裟ね。多分、またすぐに会えるわよ」


と言っていた。


あー、そういえばあの時3人で何を話ていたか

まだ聞いてないや。

だけどファイちゃん?君は何か知ってしまったね?


そして翌朝、私達は初めてできた仲間に別れを告げ

次なる地へと向かうのであった。

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