第9話 都市の守護者たち? 破壊魔じゃないの

「そっちに行きましてよ、ドゥバァー。頼みます」


 オジーンこと守護令嬢レディ・コールマンが声をあげる。その先にいる偉丈夫ドゥバアーことロード・フィリップは大剣でもって一刀のもとに甲虫を切断していく。


「更に行きます。3匹!」

「ドゥバアーさん、付与かけます」

「おぅ」


フォセレ・ヴェレ

 '主'へ祈りささげる言葉にて乞い願う


「コンフォーセレ! フォルセス<マスキュラリス>、エッセ<アグリタス>」

 剛力あれ、疾きことあれ


「うおおぉおうー」


奇跡により注がれる力に、体の内側から湧き出すように雄叫びを上げドゥバーさんが大剣を振るった。何かが弾けるような音が三つ。甲虫が瞬殺されていった。

 さすがに偉丈夫ドゥバアーさんでも、既に20匹ほど切り捨てている。疲れるのも当たり前、足元が奇しく見えてきたところへ、


フォセレ・ヴェレ

我は乞い願う

「サナ<ファティガーレ>」

癒し給え


 回復の奇跡を“主“へお願いします。そして“主“に聞き留められ、偉丈夫ドゥバァーさんは光に包まれていった。

 そうして疲労をを忘れてしまったように力強く剣を振い、ドゥバーは残りの甲虫を次々と切り捨てていく。



               ⬜︎



 その日の朝方から行っていた教会の掃除が終わり、ミサの準備を始めていたところ、街中で甲虫が大量発生したという話が教会にも流れてきた。

 帝都ウルガータの誇る回廊城壁の外に広がる下町に埋もれるようにあるパラスサイト教会。ここの聖女見習いとしてお勤めをしている私には、そんな話は関係ないはず、そう、ないはずなんだけどね。

 そんな思いも虚しく、教会の入り口に4頭立ての大型馬車のキャリィッジが教会の入り口に横づけされた。豪奢なキャビンのドアが開き、緋色の騎士服に乗馬パンツ、革のブーツの出立ちで、三つ編みにした長いブロンドの髪を靡かせて女性がが降りてきた。

 呆然と玄関に立ち尽くす私に挨拶もなしに、


「トゥーリィ、準備はできていまして?」


 口上一喝で教会へ入って来た。


「さあ、貴女は、こちらに着替えて、私たちと共にこの都市の平和を脅かすものを駆逐致しましょう」


 彼女の呼び名はレディ.コールマン。この、帝都ウルガータの侯爵家のご令嬢で、もう一つの呼び名は“守護令嬢“。彼女自身、魔法使いとして、帝都で起きた事件を解決しているお方なのだ。それもボランティアとして報酬も貰わず。


 最近、とある出来事で知り合ったのだが、私自身の秘密を知られることとなり、彼女の活動を手伝いをさせられるということになり、守護戦隊に組み込まれた。 どうやら、私の所属する聖教会もこの事を黙認しているよう。全く、いくら寄進をされたんだろうね。


「ささっとこれに着替えていただける?」


 彼女の持参したコスチューム一式なんだけど、お揃いの乗馬服は、絶対、嫌だと突っぱねて、フード付きのバーヌースにしてもらった。前あきの儀典コートみたいなものなんです。しかも色は藍色。その色は聖女様の色なんだよ。私みたいな見習いの身分が羽織るもんじゃないと主張したんだ。そこで、ごねる、泣き喚くとか、したけどダメだと受け付けてもらえなかった。せめてバーヌースの下には、いつものアンバーの見習い服を着るということで妥協するしてもらうしかなかった。

 そんなんならと、どうせ無理なんだし聖教会本部にある聖具ジェズル権杖を借りれないかどうかと頼んで見たら、早速持ってきやがった。

 ね、聖教会本部、そんなホイホイ、お偉いさんの儀典用の大事なもの持ちだしていいんですか。余計、断りにくくなったじゃないですか。

 どうして、あんな杖がいるって、それには深〜いわけがありまして……、

 あの守護令嬢なんですけど、魔法をぶっぱなすのは、いいんですよね。


「ドゥバアー、援護します! <ウィンディカッター> 重ねてもう一つ!」


 良いのだけれど、当たらない。全く当たらずに見当違いに後ろや周りにあるものを破壊して行きます。そりはもう目を瞑っているのと同じぐらい当たらない。全くもって酷いんです。これが,もう。

 だから、私は、なんで? と聞いて見たんです。守護令嬢やドゥバアーさんにも。


「こんなもんでしょ」「こんなもんだろ」

「………」


 絶句しました。一体全体、誰が治すんですかと聞いたら、親指で自分たちを指している。彼女たちが供出するって言うんですね。それが市中に金が流れるからいいじゃないかとの事。

 という事は何ですか⁈ もしかして私が壊したら自分か教会が直すというのでしょうか? そんなことになったら、教会なんか消し飛んでしまいます。私は、よるべを無くして夜をひさぐ女になるしかありません。路頭に迷うのかしら。

 そんなこと、いやぁです。もう、帰るって喚いたら私の分も彼女たちは負担はしてくれるとの事。本当のことでしょうか。嘘つくと主が黙っていませんからね。きっと……、多分……。

 でも、いつ、彼女達の気が変わるか分からないと思いますので覚悟しておかないといけませを。


あっ、又,守護令嬢が魔法を連発してる!


フォセレ・ヴェレ

 我は乞い願う


「オブリィゴ<ディスペル>、<ディスペル>、<ディスペル>……」

 

 主に願い出て、彼女が外した魔法塊を解呪していく。

 彼女のぶっ放して的を外した魔法塊に当たるようにするのに権杖を使い狙って解呪していく。そうやって被害を少しでも軽くしていこうとしています。

 巷でレディコールマンも歩く迷惑とか、緋色の破壊魔とか言わています。でも、そんな噂も減ってきていると聞きました。

 私の涙ぐましい努力を褒めていただけます。ねえ、褒めて。褒めてください。誰か褒めてよぉ。

 私がぶつくさと文句を垂れ流していると、風がいきなり吹いて私の羽織っているバーヌースのフードを剥がしてきた。解呪して行き場をなくした風の精霊の悪戯でしょうか。

 雑に切って短くしたハニーブロンドと、鈍色のフェイスマスクが表に出てしまう。甲虫退治やらで見にきている野次馬たちに私の素顔を曝け出してしまいました。


『仮面聖女だ。聖教会の仮面聖女様がいらっしゃる』


 の声が群衆の中にザワザワと広がって行きます。

どうかお願いします。良い意味で巷に知れ渡っていますように。

 

それと、私は正聖女ではありません。聖女見習いなんですよぅ。普段は、アンバーの見習い服を着ていますからね。お間違えのないようにお願いします。


 でも今、羽織っているバーヌースは碧いのですね。


「藍色の仮面聖女様!」


 はいはい、わかりました。きっと良い意味ですよね。周りの見物人たちの綻んでいる顔を見ていて安堵しました。


 ふう、概ね、大量発生した甲虫は退治できたようで、あたりの喧騒は静かになっていきます。飛び散った甲虫の亡骸はドゥバアーさんたちが手配していた人たちが回収しているようです。手回しの良いことです。

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