第4話 光の封印
数年の時が流れた。
冷たい川の流れに運ばれ、奇跡的に追手から逃れた赤子は、アシュラフから遥か東の峻厳な山脈で、隠棲する賢者ヴェリタスに拾われていた。愛する両親がどうなったか、そして故郷の街の運命は、山奥のこの場所には届かない悲劇の物語であった。
ヴェリタスは、世界から恐れられ、捨てられたこの子を、アリスと名付けた。
アリスの人生は、他の子供たちが力を高めるための訓練とは全く異なっていた。彼の修行は、力を「封じる」こと、光を「閉じ込める」ことに費やされた。彼は自身の存在が「闇の騎士」を呼ぶトリガーであると教え込まれて育ったためだ。
修行場の岩窟には、無数の古代文字が刻まれた祭壇があり、アリスは毎日その前で瞑想を続けた。彼の胸にある「光の覇王の印」は、成長と共に鮮明さを増していたが、ヴェリタスの複雑な結界術と、アリス自身の強い意志によって、かろうじて抑え込まれていた。
「いいか、アリス」
白髪を長く伸ばしたヴェリタスは、老いてなお鋭い眼差しでアリスを見つめた。
「お前の光が強くなるほど、闇の騎士は確実にお前の存在を知る。お前が世界を救う唯一の方法は、光を放つことではない。光を消し、お前の誕生を無かったことにすることだ」
アリスは、自身の存在そのものが世界を滅ぼす引き金であるという呪いを受け入れた。彼は幼い頃から、喜びも怒りも、深い感情の全てを抑圧するように訓練されていた。感情が高ぶるたびに、胸の印が脈打ち、抑圧された光が皮膚の下でちらつき、痛みを伴うからだ。
「私の力は、世界を滅ぼすためにある…私は、光を消さなければならない」
それが、アリスが唯一信じていた真実だった。彼は世界を救う「覇王」ではなく、世界を救うために自らを「封印する者」として生きていた。
しかし、その封印の奥底で、彼は時折、強い疑問を感じた。
(本当に、この光は悪なのだろうか? 私の誕生は、本当に世界を破滅させる原因なのか?)
その疑問は、光の紋様をわずかに強く輝かせた。ヴェリタスは目を細め、封印が完全ではないことを知る。
そして、人々が「光の覇王」の誕生を恐れてその芽を摘もうとしているその裏側で、伝承に定められたもう一方の極――闇の騎士は、静かに、そして着実に、この世界に姿を現す準備を完了しつつあった。
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