8251
うみの蜂
第1話
金井蓮は、毎朝、潮の香りをかすかに含んだ海風を感じながら、水平線に沿って自転車を走らせる。ごつごつとしたタイヤがアスファルトを叩き、かすかな振動が全身を震わせる。風が頬を撫で、遠く海の向こうの漁船が小さく浮かんでいるのを確認する。それは、彼にとって一日のはじまりの合図であり、静かで穏やかな儀式だった。
地元の港町から通う高校までは、およそ40分の道のり。海沿いの道をひたすら自転車を漕ぎ進む。潮風が髪を乱し、頬を打つこともあれば、雨粒が視界を遮り、それがまた彼を奮い立たせることもある。特に冬の朝、冷たい風が容赦なく吹きつける時、蓮は最高に高揚感を覚える。まるで、この風と真っ向から戦っているかのように、彼は力強くペダルを踏み込む。
蓮の通う高校は、県内屈指の進学校として知られていた。中学3年の冬、担任から、志望高校より一つ下のランクの高校への進学を強く勧められた。
しかし、蓮は全くそのつもりはなかった。なぜなら、彼の優秀な幼なじみと同じ高校に進学することに強いこだわりを持っていたからだ。
蓮は、小さい頃から兄弟のように育った幼なじみであり、今は蓮の恋人でもある福富波瑠を愛しすぎていたのだ。波瑠とはいっときも離れたくない。波瑠のいない高校生活など、考えられないことだった。
難関高への進学は、波留との未来を繋ぐための唯一の道だと信じていた。そのため、彼は死に物狂いで勉強に励んだ。ご飯の時以外はずっと過去問を解いていて、寝ている間も問題を考えていた。夢の中でも問題を解いていたほど、彼は勉強に没頭していた。
桜が舞い散る春の頃、蓮は運良く志望校に合格することができた。それは、彼にとってただ合格したという以上の意味を持っていた。それは、幼なじみとの未来への第一歩であり、何よりも波留と一緒に同じ高校に通えるという喜び、そして自分自身の努力が実を結んだ証だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます