第二章|偶然の席

会場は駅前の小さなカフェだった。

想像していたよりも静かで、明るすぎない照明が、落ち着かない気持ちを少しだけ和らげてくれる。


「初めてですか?」


向かいに座った男性が、無難な声でそう聞いた。

徹だった。


「ええ、まあ」


それ以上の説明はしなかった。

彼も深くは聞かず、コーヒーに口をつける。


仕事の話、住んでいる街の話、休日の過ごし方。

どれも特別じゃない。けれど、間が苦しくない。


徹はよく笑う人だった。

大きな声ではないが、相手の言葉を受け取ってから笑う。

みどりは、その“間”に安心していた。


「ちゃんとしてますね」


唐突にそう言われて、少し戸惑う。


「何がですか?」


「生活、っていうか」


褒め言葉なのだろう。

でも、みどりはうまく受け取れなかった。


ちゃんとしている。

それは、ずっと言われてきた言葉でもあった。


会が終わり、店を出る。

夕方の風が、思ったより冷たい。


「この辺、店は多いですね」


何気なくそう言うと、徹は少しだけ眉をひそめた。


「さっきの店は、正直あまり好きじゃなくて。

二度と来ないと思います」


みどりは曖昧に笑った。

その言葉を、深く考えもしなかった。


連絡先を交換するかどうか、一瞬の沈黙があった。


「また、話せたら」


徹が差し出したスマートフォンに、自分のIDを重ねる。 みどりは小さくうなずいた。


それだけだった。

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