第10話『嫌われちゃった』
学校前。女子生徒たちが、門をくぐっている。
それと同じく校門をくぐろうとする千咲。
「お、おねえちゃん!」
聞き覚えのある女の子声が、千咲の耳に届く。
「あ、あの時の」
その少女は、トラックに轢かれそうになっているところを千咲が助けた少女だった。隣には少女の母親が立っている。
少女は千咲ににこっと笑顔を向け、
「はいこれ、いっぱいお菓子だよ!」
手のひらサイズ、袋いっぱいのお菓子を渡す。
「本当にありがとうございます」
少女の母親が千咲に深々とお辞儀をした。
「いえいえ。きみが元気で、お姉ちゃんも嬉しいな」
千咲は少女の頭を優しくなでなで。少女はにこにこ。
その様子を、登校してきた彩夏は微笑ましそうに眺めていた。
教室。
千咲たち、いつもの5人が集まっている。
「決めた。わたし、会社継がないわ」
彩夏による、突然の会社継がない宣言。
それに対し4人は、あっと驚く。普段から厳格な雰囲気の早苗でさえも。
「今朝の千咲を見てて思ったんだ。もっと、誰かに笑いを届けられる職業につきたいって。だから、お笑い芸人とかなんでもいいから、人を笑わせる職業につく!」
「いいの?柊なんかのために」
彩夏の決意コメントに水を差すように言葉を投げかけたのは、早苗だった。千咲をよく思っていないような言葉。
「わ、わたしはいいと思う……千咲ちゃん優しいし」
愛梨はそれに賛同している様子。千咲をよく思っているよう。
「そんな勝手にいいのかよぉぉぇ!」
里見はそのどちらでもなく、彩夏が会社を継がないことに毒舌風ツッコミを入れる。
「だって、もともと同族経営で私物化するのかって社員たちからも言われてたし。ちょうどいいの」
「お前よ、そういってただ」
里見は彩夏に何かを言おうとしたが、
「めーっ」
それを遮るように、彩夏は里見の唇に人差し指をあてがった。
「な、なんだよ」
「そういうのは、自分以外が言っちゃだーめ」
「??」
里見は彩夏の言葉の意図を図りかねて困惑している。
「あ、里見ちゃん自分で気づいてない?」
「はぁ?お前何言ってんだよ」
「気づいてないなら、取っちゃうよっ。里見ちゃん、自分に正直になった方がいいよ〜!」
彩夏は、里見に向かってにかっと笑いかけた。
「意味わかんねえ……なんだこの上機嫌?」
顎に手を当て、少し首を傾げる里見。
「千咲ちゃんと、仲直り、したからじゃないかな……」
「あぁ!?」
愛梨が小さな声でつぶやき、里見がそれに大きな声で反応。
「そうそう!詳しくは言えないけど!」
と、嬉しそうな彩夏。
「次泣かせたら許さないわよ、柊」
早苗の鋭い眼光が、千咲をぐさりと突き刺す。
「はい……」
千咲、恐る恐る口を開く。そこから出たのは
「大切にします……」
勘違いされそうな友達大事発言だった。彩夏はそれを聞き、頬を赤くしてしまう。
「千咲ちゃん……わたしも、嬉しい。大切にするから」
こちらは完全に愛の告白のつもりのようで、もじもじしながらもにこにこしている彩夏だった。
早苗は不機嫌そうに、彩夏と千咲のやりとりを眺めている。
「あたしとしては、柊が彩夏と離れてくれると嬉しいのだけれど」
千咲をギロリと睨む早苗。里見よりきつい言葉のトゲが、容赦なく千咲を襲う。
「里見ちゃんより毒舌!?」
千咲の最初の反応は、怯えや悲愴よりも驚きだった。
「えー、もっと優しくしてあげなよ!千咲ちゃんにも」
早苗にそう言う彩夏だが、早苗は不機嫌そうなまま。彩夏に憧れを抱いており、それに近づく凡人の千咲に敵意のようなものを向けていた。
「早苗ちゃんは風紀委員長だから、厳しいんだね」
千咲の頭にポンと触れ、なでなでして慰める愛梨。
学校、自販機前。
千咲は財布を取り出し、硬貨を自販機に入れ、メロンソーダの下のボタンを押した。
ガコンと音が鳴った。
メロンソーダを取り出す。
「推しの女優に嫌われちゃったよぉ……」
早苗に厳しい言葉をかけられ、千咲は下を向いて落ち込んでいた。
「千咲ちゃん」
声が聞こえて顔をあげると、そこには愛梨がいた。
「愛梨ちゃん、どうしたの?」
愛梨を見つめる千咲。内心は
(あぁ、やっぱりふわふわした喋り方、癒されるなぁ……余計なこと考えなくていいし、これが友達かぁ)
愛梨にやすらぎを感じ、ほわほわしていた。それが顔に現れ、ニコニコしながら愛梨を見つめている。
「早苗ちゃんと、仲良く、したいの?」
「だって、友達は多い方がいいじゃん」
「そう、だね」
綺麗なふたりが並ぶ、女子の会話。周囲の女子がちらちらと2人を見ていた。
愛梨、下を向いてしゅんとしてしまう。千咲はそれが気になる様子で、愛梨を心配そうに見つめる。
千咲は、愛梨がしゅんとしている理由に察しがついていた。
里見との確執。
愛梨は昔、里見の親友を死なせてしまった。それを謝りたくて、償いたくて、愛梨は今まで里見を追っていた。
たとえ、突き放されようとも。
自分のエゴかもしれない。それでも、正しいと思った道を進む。もう二度と、間違えないために。
「愛梨ちゃんの家にお泊まりできたら嬉しいなっ。わたし、前にしたいって言ったし!」
千咲のそんな言葉が、愛梨の傷ついた心を溶かしていく。愛梨の表情が、柔らかくなっていく。
「わ、わたしも嬉しい」
千咲に向かって、にっこり笑いかける愛梨であった。
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