こんなえっちな百合ハーレムなんて無理だから!〜私を堕とせるのはただ一人?いや、ここからが恋人だし!〜

美和蘭 翠(みなぎし すい)

第1話『いきなり告白!?私、恋人関係苦手なのに!』

 夕焼けに染まった通学路を歩いている女子高生2人。


「千咲ちゃんのことが、好きなの」


 金髪美人が、顔を赤くしながらひいらぎ千咲ちさきに向かって告白──愛の言葉を伝えた。その顔は火照っていて、千咲への愛が伝わる。


「ええええええええ!?」


 千咲、目と口を大きく見開き、驚きの声をあげる。


 これは、1人の女の子が壊れた心を治すため、友情と愛情に身を包んでいく──ゆくゆくはえっちになっていく百合のお話。そのはじまりとなる、愛の告白である。




 憧れという純粋な心は、わたしを壊した。いつか、この壊れた心を治してくれる誰かが現れたらいいのに。

 女子高に通う高校生、柊千咲はそう思っていた。


 柏木と表札にある和風の家の中。和風の食事が、和室の食卓に並んでいる。

 ほかほかの白米、綺麗な魚、湯気が立っている味噌汁。


 それを勢いよく口に放り込み、咀嚼し、笑顔になる千咲。


「ごちそうさま!」


 と、叔母の柏木かしわぎ奈子なこに笑顔で元気よく挨拶する千咲。


「今日から3年生ね。行ってらっしゃい」

「奈子おねえさん、いってきます!」


 挨拶を交わし、ドアに手をかける千咲。そのままドアを開け、外へ飛び出す。



 校門前。

 老人が困っているのを見つけた千咲。迷う素振そぶりを見せず、荷物を持って助ける。


 老人に礼を言われ、千咲は優しい笑顔で


「このくらいお安い御用だよ」


 と言い残した。


「せーのっ……わたしは、桜学園女子高校の全員と友達になるJKよ!」


 そう言って千咲はバンザイをした。

 その場にいた老人と女子たちが、一斉に千咲の方を振り向いた。


「あ、ごめんなさいぃ」


 恥ずかしさから少し身をかがめ、そのまま校門をくぐる千咲。



 始業式が終わり、3年3組。

 千咲は、席に座ってゲームをしていた。


(やっぱゲームに限るわぁ。落ち着く〜)


 ほんわかした表情で、自分が操作するゲーム画面を眺めている。


 不意にフラッシュバックする記憶。

 院長が「がんばったご褒美」と言い、まだ6歳で病室のベッドで療養中の千咲にゲーム機を渡す。それを千咲は「ありがとう」と返し、にっこり笑う。


 そんな記憶を思い出し、千咲は少し寂しそうな笑顔になり、「楽しい」と呟いた。


 「やっぱ、これが落ち着くなあ。忘れようと思っても、忘れられないんだ」


 と言ったところで、千咲は少し「ポエムみたいになってしまった」と思った。


 なにやら、クラスメイトが教室の外の廊下を覗きながらざわざわし始める。


「来た!」

「白石さんよ!」


 クラスメイトから発せられた声。千咲を含めたクラスメイトがそれに反応。


 道を塞がないようにと、ドア前をどくクラスメイト。


 金髪巨乳美人。まさしくそんな特徴の女子生徒が教室へ入ってきた。


(え、あの白石しらいしインテリジェンスの社長令嬢さんが同じクラス!?)


 千咲の視線は、自然とその女子生徒に吸い寄せられていた。


(ちょちょ、えやばやば、すご!)


 心の中で誰にも見られない動揺を見せる千咲。しかし驚きを隠しきれず、ゲーム機を床に落とした。

 咄嗟にそれを拾う千咲。


 金髪の女子生徒はゆっくりと千咲に近づき、千咲の隣の席に座る。


「おはよう。何をしているの?」


 と、千咲に言葉をかける金髪の女子生徒。

 彼女の名は、白石しらいし彩夏あやか。それなりに有名な、AI企業の社長令嬢だということを、千咲は知っている。


「あ、えっとゲームでしゅ」


 まさか自分と同じクラスになるとは。という動揺を隠せず、千咲は舌を噛んでしまった。


「舌噛んじゃった!ご、ごへんなさい……いたた」


 涙目になりながら舌を触る千咲。


「ふふっ!あなた、面白いのね!」


 涙目の千咲を見て、彩夏は口に手を当てて笑った。


「あ、ええっと」

「緊張しなくていいわ。私は白石彩夏、知ってるかもしれないけど社長令嬢よ。あなたは?」

「わたしは柊千咲ってい、いいますっ!」

「あははっ!そんな、かしこまらなくてもいいわよ!」


 今度は口に手を当てず、少し大きめに口を開けて笑う彩夏。


 千咲、恐る恐る彩夏の顔をじっと見つめ、


「お、お友達に……」


 恐る恐る声を絞り出す。


 一瞬が何秒にも何分にも感じる。千咲はこのとき、心臓の鼓動でそんな錯覚を覚えていた。


「もちろんいいわ、よろしくね」


 彩夏はそう言って、千咲に笑顔を向けた。

 千咲はその笑顔を見て、自分自身もぱっと明るい笑顔になった。


 このとき千咲は、まさか自分が告白されるなどとは、微塵も思っていなかった。そして、その先に待ち受ける結末を、千咲はまだ知らなかった──



 数日が経った。


 放課後、曇り空。

 千咲はベンチに座り、公園でゲームしていた。


「あーづがれだ〜っ!みんな白石さんに注目してるから、私なんかがってすっごい気ぃ遣った……友達は超嬉しいけど」


 くつろぐために伸びをしようとしたその瞬間。


「そんなところでゲームして。よっぽど好きなんだねゲーム」


 彩夏の声が千咲の耳に届く。

 声のした方を見ると、入口付近に彩夏が立っていた。


 (やば!い、今の聞かれちゃってた?せせ、せっかく友達作ったのに)


 ひとりごとを聞かれたのではと不安になり、震える千咲。


「あ、白石さんっ。何してるの?」


 恐る恐る彩夏に視線を移す。すると、彩夏は千咲の隣に座ってきた。


「気になったから追って来ちゃったわ。それで、寂しそうにしてるからなにかあったのかなって」

「えっ」


 本質を突いた彩夏の言葉に、千咲はほんの少しまともな返事が遅れた。


「私、高校卒業したら次期社長になるの」


 少し寂しそうな表情になり、ぽつりと言葉を漏らす彩夏。


「すごい」

「すごいんだけど、親が敷いたレールを走ってばかりの自分に最近疑問を感じて来ちゃって」

「親が悩みかぁ……わたしも同じ。昔医者を目指したことがあって、ママの育児負担が増えて家族がガタガタになっちゃって。今は親戚の家に居候してる。1回できた彼氏、わたしの弱いところ見せたらすぐどっか行っちゃって。だから、えっと。また友達ができてすっごい嬉しい」


 ここまで喋ったところで、千咲ははっとした。

 なんでこんなこと喋っているんだろう。嫌われてしまう。昔振られてトラウマの彼氏の話なんて聞きたいわけがない。そんな恐怖が千咲を襲う。


「なんかイメージ通りだわ」

「えっ?」

「始業式の日、老人の荷物持ってたでしょ?」

「あっ」


 彩夏に始業式の日のことを言われ、固まってしまう千咲。


「優しいのね」


 彩夏、千咲ににこっと笑いかけ、千咲の頭にそっと手を乗せる。そのまま、優しく頭をなでなで。


「ちょ、ちょっと白石さん!」


 慌てて頬が赤くなってしまう千咲。


「って、まさかあのバンザイも」

「ふふっ!見たよ。全員と友達になるって?」

「〜〜〜〜!!」


 あの時のことを思い出し、おもいっきり顔が赤くなった。慌てて顔を両手で覆い隠す千咲。


 彩夏はそんな千咲を見て少しにこっと笑い、そのまま公園入口を見て寂しそうな表情になった。


「千咲ちゃん、いろいろ気にせず喋れた。ほら、私ってAI企業の社長令嬢だしみんな尊敬の目で見てくるから、尊敬ってどこか遠いの。友達ができてもなんか違くて」


 そんな彩夏の寂しそうな表情を見た千咲は、


「白石さんはすごいよ!尊敬してる!あ、尊敬してない!あ、それも違っ、あれ、どっち?」


 褒めようとした。しかし、尊敬というワードが邪魔をしてうまく褒めの言葉が出てこなかった。


「とにかく、お友達でよかった!」


 慌てふためいた千咲。尊敬というワードを消してあらためて言葉を絞り出した。


「ぷっ!あははっ!」


 慌てる千咲の様子を見ていた彩夏は、我慢できずに吹き出し笑い。


「千咲ちゃんって本当に面白いね!千咲ちゃんも私を尊敬してるみたいだけど、不思議と話しやすいわ。改めてだけど、友達になってくれる?それと、彩夏って呼んで」


 と、千咲ににこっと笑いかける。


「あ、彩夏っ!」


 少し恥ずかしそうに、恐る恐る彩夏を呼ぶ千咲。


「嬉しい!」


 千咲の彩夏呼びを聞き、ぱあっと明るい笑顔になった彩夏。


「わ、私も好き」


 またもや絞り出すように、千咲の口から言葉が出た。


 ──ああ、こんどは逃げていきませんように──


 彩夏と正式に友達になり、ほわほわとした気持ちが千咲の中を満たした。

 このときの千咲は、まさかあんなことになるとは思ってもいなかった。



 夕焼けに染まった通学路を、2人は家に向かって通学路を歩いていた。


「千咲ちゃんのことが、好きなの」


 彩夏が、顔を赤くしながら千咲に向かって告白。その顔は火照っていて、千咲への愛が伝わる。


「ええええええええ!?」


 千咲、目と口を大きく見開き、驚きの声をあげる。

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