第5話 ガス欠と昼メシと王都の午後

昼前の王都は、冒険者が一仕事終えてギルドへ戻る時間帯らしく、道がいつもより混んでいた。


「いや〜、今日は朝から走りっぱなしだな……」


 そんな独り言を言った瞬間。


ピピッ……ピピピピ……!


《警告:魔力残量 5%

 推奨:早急に魔力補給を行ってください》


「あー……ついに来たか。ガス欠(魔力欠)の時間だな」


 普通のタクシーならガソリンだが、異世界タクシーは魔力結晶が燃料。

 走れば走るほど消費するし、昨日の悪徳令嬢の“高速ワープ移動”でだいぶ吸われた。


「よし、どっか路肩に寄せるか」


 惰性でゆっくり路地に入り、なんとか安全に停車する。


 



「さて……魔力補給所まで歩くか」


 歩き出してすぐ、腹が鳴った。


 ぐぅぅぅ。


「……あー、そういやまだ飯食ってなかったわ」


 仕方なく、途中にある屋台へ寄ることにした。


 木製のカウンターに、気のいいおっちゃんが立っていた。


「へい、らっしゃい! 昼はまだだろ兄ちゃん」


「まあ……そんなところです」


「あいよ、じゃあオススメの“肉野菜炒め定食”でいいか?」


「それで頼む!」


 王都は不思議なもんで、店主たちは全員話がはやい。


 炒め物の香りが漂ってきて、空腹を刺激する。


「しかし兄ちゃん、その制服……異世界の“運び屋”か?」


「まあ……そんな感じです」


「大変だなあ。昼メシ抜きは体に悪いぞ」


「ほんとそれですね……」


 皿が置かれた瞬間、もう理性が飛んだ。


「うまっ……!」


「そりゃそうだろ、王都一うまいんだからよ!」


 冗談か本気か分からないが、確かにうまい。

 野菜シャキシャキ、肉も柔らかい。


 あっという間に平らげ、満腹のまま店を出る。


「さて……腹も満ちたし、魔力補給に行くか」


 



 魔力結晶のスタンドは、ガススタみたいに魔法陣が描かれている。


「すみませーん。軽めの充填で」


「へい、魔力結晶ひとつですねー!」


 店員の兄ちゃんが慣れた手つきでタンク部分に魔力石をセットし、

 魔法陣が青く光る。


《魔力充填中 12%……30%……78%……》

《魔力充填完了:100%》


「おお……満タン」


「兄ちゃん、魔力はこまめに入れないと動けなくなるから気をつけなよー」


「すみません、次から気をつけます」


 そう言ってタクシーへ戻る。


 



 エンジン(魔力炉)が静かに起動し、メーターがいつもの光を取り戻す。


「よし……午後の営業いくか」


 昼下がりの王都は穏やかだ。

 冒険者の愚痴、騎士団のぼやき、商人の相談——

 今からまた、いろんな乗客といろんな話が待っている。


「さて……次のお客さんは、どんな人だろうな」


 そんな軽い気持ちでアクセルを踏み、

 異世界タクシーはゆっくり走り出した。



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