第5話 ガス欠と昼メシと王都の午後
昼前の王都は、冒険者が一仕事終えてギルドへ戻る時間帯らしく、道がいつもより混んでいた。
「いや〜、今日は朝から走りっぱなしだな……」
そんな独り言を言った瞬間。
ピピッ……ピピピピ……!
《警告:魔力残量 5%
推奨:早急に魔力補給を行ってください》
「あー……ついに来たか。ガス欠(魔力欠)の時間だな」
普通のタクシーならガソリンだが、異世界タクシーは魔力結晶が燃料。
走れば走るほど消費するし、昨日の悪徳令嬢の“高速ワープ移動”でだいぶ吸われた。
「よし、どっか路肩に寄せるか」
惰性でゆっくり路地に入り、なんとか安全に停車する。
◆
「さて……魔力補給所まで歩くか」
歩き出してすぐ、腹が鳴った。
ぐぅぅぅ。
「……あー、そういやまだ飯食ってなかったわ」
仕方なく、途中にある屋台へ寄ることにした。
木製のカウンターに、気のいいおっちゃんが立っていた。
「へい、らっしゃい! 昼はまだだろ兄ちゃん」
「まあ……そんなところです」
「あいよ、じゃあオススメの“肉野菜炒め定食”でいいか?」
「それで頼む!」
王都は不思議なもんで、店主たちは全員話がはやい。
炒め物の香りが漂ってきて、空腹を刺激する。
「しかし兄ちゃん、その制服……異世界の“運び屋”か?」
「まあ……そんな感じです」
「大変だなあ。昼メシ抜きは体に悪いぞ」
「ほんとそれですね……」
皿が置かれた瞬間、もう理性が飛んだ。
「うまっ……!」
「そりゃそうだろ、王都一うまいんだからよ!」
冗談か本気か分からないが、確かにうまい。
野菜シャキシャキ、肉も柔らかい。
あっという間に平らげ、満腹のまま店を出る。
「さて……腹も満ちたし、魔力補給に行くか」
◆
魔力結晶のスタンドは、ガススタみたいに魔法陣が描かれている。
「すみませーん。軽めの充填で」
「へい、魔力結晶ひとつですねー!」
店員の兄ちゃんが慣れた手つきでタンク部分に魔力石をセットし、
魔法陣が青く光る。
《魔力充填中 12%……30%……78%……》
《魔力充填完了:100%》
「おお……満タン」
「兄ちゃん、魔力はこまめに入れないと動けなくなるから気をつけなよー」
「すみません、次から気をつけます」
そう言ってタクシーへ戻る。
◆
エンジン(魔力炉)が静かに起動し、メーターがいつもの光を取り戻す。
「よし……午後の営業いくか」
昼下がりの王都は穏やかだ。
冒険者の愚痴、騎士団のぼやき、商人の相談——
今からまた、いろんな乗客といろんな話が待っている。
「さて……次のお客さんは、どんな人だろうな」
そんな軽い気持ちでアクセルを踏み、
異世界タクシーはゆっくり走り出した。
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