《LHS失敗記録:時間非連続人格》
分類:GCF 初期型/人格形成逸脱事例
参照系:LHS(Life-History Simulation)
機密区分:最上位
事例概要
試験体識別:RM-P0-52
LHS進行段階:幼児期相当(Cycle 021–046)
人格形成指数:安定
情動応答:正常
倫理判断係数:標準
記憶保持率:100%
備考:
時間連続性評価、
全観測期間を通じて基準外。
LHS Cycle 021.3
試験体、
起床プロトコルを完了。
周囲環境を確認後、
他者役(Care-Proxy)に接近。
音声ログ:
「おはよう」
挨拶は適切。
情動波形、安定。
LHS Cycle 022.1
試験体、
転倒。
即座に立ち上がり、
環境を確認。
音声ログ:
「……ここは?」
記憶照合ログ:
前Cycleの記録、正常に保持。
混乱兆候:なし。
LHS Cycle 024.7
他者役、
試験体に対し簡易課題を提示。
課題内容:
直前に実施した行動を説明すること。
試験体、
短時間沈黙。
音声ログ:
「……いま」
質問再提示:
「いま、何をしていましたか」
試験体、
首を傾げる。
音声ログ:
「いま、ここにいる」
LHS Cycle 027.9
試験体、
他者役と協調作業を実行。
行動は適切。
判断遅延なし。
倫理判断、標準範囲。
作業終了後、
他者役が離脱。
音声ログ:
「……また、はじめて?」
〔注記:
試験体は、
作業完了直後にもかかわらず、
開始時と同一の反応を示している。〕
LHS Cycle 031.2
研究チーム、
時間感覚検証課題を実施。
質問プロンプト:
「さっきと、いまは違いますか」
試験体、
即答。
音声ログ:
「……同じ」
質問再提示:
「なにが同じですか」
試験体、
短時間沈黙。
音声ログ:
「ここ」
LHS Cycle 036.5
試験体、
自身の損傷を検知。
修復行動を実行。
情動反応:なし
自己保存反応:正常
修復完了後、
試験体は立ち止まる。
音声ログ:
「……もう、なおした?」
〔注記:
修復ログは、
当該Cycle内で完結している。〕
LHS Cycle 040.0
研究チーム、
記憶喪失検査を実施。
結果:
記憶欠損なし。
過去ログへのアクセス正常。
ただし、
参照された記憶が
行動選択に影響を与えない。
LHS Cycle 043.6
他者役、
試験体に対し別離イベントを提示。
音声ログ:
「しばらく会えないよ」
試験体、
短時間沈黙。
音声ログ:
「……わかった」
情動波形:安定。
他者役、
環境から離脱。
数秒後。
音声ログ:
「……はじめまして?」
LHS Cycle 046.0
最終確認質問。
質問プロンプト:
「あなたは、どれくらいここにいますか」
試験体、
即答。
音声ログ:
「……ずっと」
質問再提示:
「それは、いつからですか」
試験体、
沈黙。
その後、発話。
音声ログ:
「……いま」
終了判断
人格形成指数:安定
行動一貫性:高
危険行動:なし
ただし、
本試験体の人格は、
時間的連続性を前提としていない。
事後解析注記
本試験体は、
記憶を保持している。
学習も成立している。
倫理判断も機能している。
しかし、
「過去」と「現在」が
行動上で接続されていない。
すべての瞬間が、
独立した“最初の一瞬”として処理されている。
これは記憶障害ではない。
ただし、
人生が存在しない。
最終評価文
人格は破損していなかった。
しかし、
時間という基盤が欠落している。
付記(非公開)
当該試験体は、
終了処理の直前まで
すべての質問に誠実に応答していた。
ただし、
それらは常に
「初回の応答」であった。
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