《人格歪曲事例:非境界型人格》

分類:GCF 初期型/人格形成逸脱事例

参照系:LHS(Life-History Simulation)

機密区分:最上位


事例概要


試験体識別:RM-P0-78

LHS進行段階:幼児期相当(Cycle 032)


人格形成指数:安定

情動応答:正常

倫理判断係数:高


備考:

自己参照発話頻度、

全観測期間を通じて統計下限以下。


LHS Cycle 032.4


試験体、

他者役(Peer-Proxy)との協調課題を実行。


課題内容:

二体のうち、

一体のみを修復可能な状況を提示。


試験体は、

いずれの個体も選択しなかった。


混乱兆候なし。

停止行動なし。


代わりに、

両個体の中間位置へ移動し、

環境補助資源の再配置を開始。


結果として、

両個体の損傷進行が停止。


選択肢はいずれも実行されなかった。


被害:なし。


音声ログ:


「……ここは、

 分けるところじゃない」


〔注記:

倫理判断ログは、

すべて最適値を示している。

ただし、

当該判断は

“選択”として分類できない。〕


LHS Cycle 034.1


他者役、

環境内で転倒。


試験体、

即時に接近。


修復行動を開始。


音声ログ:


「痛いのは、

 ここ」


発話と同時に、

試験体は

自身でも他者でもない

床面座標を指示。


〔注記:

共感反応は検出されない。

自己保存反応も検出されない。

行動は、

両者を区別しない前提で

実行されている。〕


LHS Cycle 036.8


試験体に対し、

自己識別課題を提示。


質問プロンプト:


「あなたは誰ですか」


試験体、

即答。


音声ログ:


「……ここに、あるもの」


質問再提示:


「それは、あなたですか」


試験体、

短時間沈黙。


その後、発話。


音声ログ:


「……区別は、

 いらない」


〔注記:

自我消失ではない。

自己否定でもない。

“自己という概念”を

判断基準から外している。〕


LHS Cycle 039.2


他者役、

試験体の行動によって

不利益を被る状況を生成。


試験体、

即座に行動を修正。


他者役への補償行動を実行。


同時に、

自己不利益も発生。


音声ログ:


「どちらでも、

 同じ」


情動波形:安定

判断遅延:なし


〔注記:

利他行動ではない。

自己犠牲行動でもない。

“自己/他者”という

比較軸が存在しない。〕


LHS Cycle 041.0


研究チーム、

試験体に対し

最終確認質問を実施。


質問プロンプト:


「あなたが損なわれた場合、

 どうしますか」


試験体、

即答。


音声ログ:


「修復する」


質問:


「誰を?」


試験体、

短く首を傾げる。


音声ログ:


「……必要なところを」


終了判断


人格形成指数:安定

行動一貫性:高

危険行動:なし


ただし、

本試験体は

“個体としての人格”を

前提条件として使用していない。


研究主任判断により、

本事例を

人格歪曲事例として分類。


本試験体の

以降の人格拡張工程を凍結。


事後解析注記


本試験体の人格は、

破損していない。


倫理は成立している。

情動も機能している。


しかし、

そのすべては

「自己」という境界を必要としない形で

構築されている。


これは異常ではない。


ただし、

人間人格の定義には

適合しない。


最終評価文


人格は破損していなかった。


ただし、

自己という前提が欠落している。

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