第14話 洗礼と常識の崩壊
午前の授業は、中庭での実技演習だった。 まずは剣術の模擬戦だ。
「殿下! 俺にアレンとの手合わせを許可願います!」
ランスロットが木剣を構え、鼻息荒く名乗り出た。 彼は父から「アレンには近づくな」と言われていたが、それを「父上の過保護」だと解釈していた。自分が父を超えたことを証明するには、父が恐れる相手を倒すのが一番だ。
「……いいでしょう。ただしアレン、絶対に『撫でるだけ』よ。分かったわね?」
「はーい」
アレンがゆっくりと木剣を持つ。構えてすらいない、ただぶら下げているだけだ。 ランスロットのこめかみに青筋が浮かぶ。
「舐めるなァッ!」
ランスロットが鋭い踏み込みから、上段斬りを放つ。同年代では間違いなくトップクラスの冴えだ。 だが、アレンには止まって見えた。
「んっ」
アレンが木剣を下から上へ、軽く振る。 カッ――! 剣が交差するより早く、アレンの剣圧が突風となってランスロットを襲った。
「ぶべらっ!?」
ランスロットはあられもない声を上げ、ピンボールのように空を舞い、訓練場の壁にへばりついた。木剣すら触れていない。ただの風圧での敗北だ。
「な……っ!?」
見学していたシャルロットが眼鏡をずり落とす。 アレンは「あ、強くやりすぎちゃったかな?」と首を傾げている。
「つ、次は魔法よ! 野蛮な力比べなんて野蛮人のすることだわ!」
シャルロットが震える手で杖を構えた。 彼女は得意とする『炎の矢(ファイア・アロー)』を展開する。五本の炎の矢が宙に浮く。十二歳でこれだけの並列展開ができるのは天才の証だ。
「すごい! 綺麗な魔法だね、シャルロットちゃん!」
「ふふん、これくらい当然……きゃあっ!?」
アレンがパチパチと拍手をした瞬間、その手から漏れ出た魔力がシャルロットの魔法に干渉した。 五本の矢は一瞬で融合し、巨大な『炎の龍』へと変貌して空へ昇っていった。 ボォォォォォン!! 上空で花火のように爆発し、黒い煤がパラパラと降ってくる。
煤まみれになったシャルロットと、壁からずり落ちてきたランスロット。 二人は顔を見合わせ、そして同時にアレンを見た。 アレンはニコニコと笑っている。
((勝てない))
二人の天才のプライドが、粉々に砕け散った瞬間だった。 同時に、ある種の連帯感が生まれた。 ――こいつは、僕たちが監視していないと、国を滅ぼす。
「……アレン君。君、すごいね」 「僕の負けだ。……師匠と呼ばせてくれ」
ボロボロの二人に囲まれ、アレンは「えへへ、そうかな?」と照れていた。セシリアだけが、胃薬が欲しい顔で天を仰いでいた。
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