第5話 出禁の吸血鬼デスカ?

 連れてこられたのは、北の山岳地帯の地下に広がる闇の国。おどろおどろしい場所かと思いきや、意外にものどかで美しい景色が広がっている。


 陽気なゾンビ姉妹が温泉まで案内してくれて、湯上がりには甘い果実ジュース、その後に用意された絶品のコース料理は骸骨騎士特製のものらしい。


「おなかいっぱい……もう朝から晩までお祈りしなくていいんだ」

 わたあめみたいなベッドで惰眠を貪る、闇落ち(?)スローライフ最高!


「因果の鎖に縛られし子羊よ。汝の魂を浄化するときだ。くらきき闇の抱擁こそが真なる福音ふくいん……」

『ゆっくりしていってね、だって』


「だいぶ省略してない? ヴェルミリオンも何か言いたそうだけど」


『ヴェルっちは緊張するといつもこうだから。五百年前も代替わりして初めて人間に呼ばれていって、血を欲するとか無表情で言うから誤解されてさ』


「血……?」


『ヴェルっちは吸血鬼だから、真の力を発揮するには聖女の血が必要なわけ。でもこんな喋り方だから怖がられて出禁できんになった。当時ボクも必死に翻訳したんだけど、誰も魔力が平凡すぎて存在を認識してもらえなかった』


「出禁……結界を張られたのね」


『ほんと、召喚儀式をしたのが君で助かったよ。人間たちは勘違いしてるけど、魔物ってのは欲望や悪意が実体化したものなんだ。で、人間が仕留め損ねた奴を、ヴェルっちが一人で対応してんだけど、最近数が増えてきて困ってたんだ』


 欲望、悪意……なんか身近に心当たりがありすぎる。


「五百年もワンオペってこと?」

 結局ここもブラックな世界なのだろうか。私は震えあがった。


「孤高なる玉座は我が使命。汝は至高なる深淵に沈むがよい」

『これからも独りでなんとかするから君はのんびりしてていいよ、だって。まじか、本気で君に惚れたらしいな』


「のんびり……って」

 至れり尽くせりの待遇はまるで天国みたいだ。でも、誰かに頼り切って、それに甘えて自堕落な生活を送ったら、あの神殿にいた人たちと何も変わらない。


「のんびりスローライフは楽しませてもらうわ。でも、あなたの手助けもさせてよね。これでも聖女十人分の力があるらしいから」

 私は袖をまくって細腕で力こぶを作る真似をした。


 その瞬間、ヴェルミリオンの両目から、だばーっと滝のように涙が溢れる。

 言葉はなくても、彼が喜んでいることはわかった。


「一人で頑張ってきて偉いっ、あなたも、私もね」

 私はにっこりと笑って、ヴェルミリオンの頭を撫でた。


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