第2話 初戦闘と死に戻り

「変わった目、だと?」


 シルヴィアは疑わしげに俺を見下ろしている。  当然だ。今の俺は丸腰の貧弱な男に過ぎない。エルフの彼女から見れば、森に迷い込んだ子供と同レベルだろう。


「ああ。例えば、この先に潜んでいる魔物の気配とか、襲ってくるタイミングがわかる」

「予知能力とでも言うつもりか? 人間がそんな高位の魔法を使えるとは聞かないが」

「魔法じゃない。ただの勘みたいなものだ。でも、よく当たる」


 俺はハッタリをかます。  実際には予知などできない。だが、『セーブ&ロード』を使えば結果的に予知と同じことができる。  シルヴィアは鼻を鳴らした。


「いいだろう。そこまで言うなら、次の街まで連れて行ってやる。ただし、私の足手まといになった瞬間、置いていく」

「交渉成立だな。ありがとう」


 俺たちは歩き出した。  彼女の歩調は速い。森の地形などものともせず、音もなく進んでいく。俺は必死についていくのがやっとだ。  彼女は俺をチラリとも見ない。完全にただの荷物扱いだ。  このままでは好感度を稼ぐどころか、次の休憩で見捨てられる可能性が高い。何か役に立つところを見せないと。


 ガサッ。


 右手の茂みが揺れた。  俺が反応するより早く、緑色の小鬼――ゴブリンが飛び出してきた。  手に持った錆びたナイフが、俺の腹をめがけて突き出される。


「あ」


 声が出たのは、ナイフが深く刺さった後だった。  熱い。痛い。  激痛が脳を焼き切るようだ。  シルヴィアの剣が閃き、ゴブリンの首が飛ぶ。だが、遅かった。


「……チッ、口ほどにもない」


 薄れゆく意識の中で、シルヴィアの冷たい声が聞こえた。  彼女は俺を助け起こそうともしない。ただ、役立たずの死体を見る目で俺を見下ろしている。  ああ、これは駄目だ。  痛みで思考が真っ白になる前に、俺は最後の力を振り絞って念じる。


(ロード!)


 世界が逆再生される。  痛みが消える。  俺は森の中を歩いていた。  目の前にはシルヴィアの背中。  心臓が早鐘を打っているが、腹に穴は空いていない。  俺は生きて戻った。


 深呼吸をする。  場所はさっきの地点の十メートル手前だ。  あと数歩進めば、右の茂みからゴブリンが飛び出してくる。  ナイフの軌道は下から上。狙いは俺の腹。  わかっているなら、対処は簡単だ。


 俺は足元に落ちていた手頃な石を拾った。  握り拳ほどの大きさの、ゴツゴツした石だ。


「シルヴィア、止まってくれ」

「何だ?」


 彼女が足を止めて振り返る。  その瞬間、俺は右手の茂みに向かって、全力で石を投げつけた。  狙うのは茂みの陰、ゴブリンが飛び出す直前の顔の位置だ。


 ドゴッ!


 鈍い音が響く。  直後、「ギャッ!?」という汚い悲鳴と共に、ゴブリンが茂みからよろけ出てきた。  眉間から血を流し、目を回している。完全に虚をつかれた形だ。  シルヴィアの反応は神速だった。  俺が声を上げるまでもなく、彼女の剣が一閃する。  ゴブリンの首が宙を舞い、胴体が崩れ落ちた。


「……」


 シルヴィアが剣を振り、血糊を払う。  そして、驚愕を隠せない表情で俺を見た。


「今、何をした?」

「言っただろう。気配がわかるって。あそこにゴブリンが隠れていて、飛び出そうとしていたのが見えたんだ」


 俺は何でもないことのように肩をすくめる。  内心では冷や汗が止まらない。石が外れていたら、また死ぬところだった。  シルヴィアは死体と俺を交互に見比べ、剣を鞘に納めた。


「……偶然ではない、か。あのタイミングで牽制を入れるなど、熟練の冒険者でも難しい」

「役に立ったか?」

「ああ。私が気づくより早かったことは認める。……助かった」


 彼女の態度がわずかに軟化した。  俺はすかさず『鑑定』を使う。


名前:シルヴィア

好感度:12


 よし、上がった。  5から12へ。微々たるものだが、少なくとも「道端の石ころ」から「使える道具」くらいには昇格したはずだ。  俺はこの調子で、死に戻りを繰り返しながら彼女の信頼を積み上げていくことを決めた。  どんなに理不尽な死が待っていようと、俺だけが正解を知っているのだから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る