前提2 ゆるふわギャルが友人にいる。
翌朝の通学路は、普段よりも落ち着かなくて、こちらにベクトルの向いた喧騒が多かった。
スマホに釘付けな生徒が多く、横を通り過ぎていく女子グループの「アレが処女姫を落とした男……」だの「うわ出た95%」とかいう会話の切れ端が、いやに耳朶を打っていく。
何でこうなったんだかな……と空を見上げるのも億劫だ。
生徒会副会長にして、恋愛届制度の推進派である、彼女のせいだ。
否、もっと正確なことを言うならば、月之上副会長が勝手に俺との相性を診断し、有り得ない数字を叩き出したせいなので、半分くらいは俺のせいかもしれないのだが……。
気分としては最悪だ。
あちこちから突き刺さってくる好奇の視線や会話をシャットアウトするように、イヤホンを捻じ込んだけれど、中々逃げきることは難しい。
流石は
ため息もほどほどに、何故か設置されている、ここは東京ディズニーランドかよみたいな改札を抜けると、校門前の巨大モニターは【今週のトレンド】とかいうのが流れていた。
本日のトップは、まあお察しの通りと言ったところである。
【#運命の二人】
【#90%の壁を越えたカップル】
【#月夜姫陥落】
【月之上月夜×三方ヶ原加波】
【95.4%】
う~~ん、気絶しそう。
何なんすかねアレ? 上から下まで我がことで埋まってるんですけど。
滅茶苦茶バカなのかな? 幾らなんでも話題にしすぎだろ。
何だか脳が揺れるような感覚がして、意識が飛び跳ねていた。
人によっては、これで承認欲求とかが満たされたりするのだろうか?
まるでその気持ちが分からないことが、今この時だけは残念に思う。
「やっほ~! かーなみん!」
浅い呼吸で、必死に意識を繋ぎとめていたら、不意にどーん! と両肩に衝撃が走った。
俺の全身を覆っていた鬱々とした気持ちを、物理でぶっ飛ばさんとばかりの勢いである。
「いってぇ……朝から元気だな、
中学からの知り合いであり、俺にとって数少ない友人の一人だ。
見た目が完全にゆるふわギャルである彼女と友人だなんて言うと、まるで彼女がオタクに優しいギャルであるかのように聞こえてしまうのだが、実際のところ、その通りである。
こいつの俺の初期の呼び名「オタクくん」だしな。嘗めとんのか。
「おっはよ~! 相変わらずぽやっとした顔してるね~。人気者がそんなんじゃ、示しがつかないんじゃな〜い?」
「喧しすぎる……だいたい、人気者じゃなくて、晒し者にされてるだけだっつーの」
「あは~、そうとも言うかも~」
「や、そうとしか言わねーんだよ……」
ため息交じりに桜SNSに視線を落とす。
そうすれば、『95%はもう秒速婚』だの『ドラマ化決定!』だの好き勝手言われ倒していた。
見なければ良いと言われればそれまでだが、この学園じゃどうしたって、それだけじゃどうしようもない。
「ま~、でも、逃げられるものじゃないし、いっそ楽しんでみたら~?」
「や、楽しむってお前ね……」
「ほら、何事も経験だって大人は言うし、かなみんだって、人と付き合うのは初めてなんだから~」
良い練習になるんじゃない? なんて勝手なことを、杏珠はさらりと言ってしまう。
彼女くらい異性にモテてきた人生を歩んできたのなら、俺とてそう考えられたのかもしれないのだが、残念ながらそうはいかないのが実情だ。
俺は基本的に少数派の人間だったし、当然ながら、誰かと付き合ったりという経験はない。
いや、まあ、恋愛届制度って、こういう人間を減らす為でもあるらしいので、そう考えれば実に有効的に作用しているとも言えるのだが……。
「余計なお世話すぎるんだよな……」
しかも俺の場合、交通事故みたいなもんだし。
完全に当たり屋だからね? 月之上副会長のやり口。
世が世なら訴えられたんじゃないか?
「文句を言っても〜、不平不満を零しても〜、現実は変わらないんじゃない?」
「変わらないから愚痴ってるんだろ。あんまり正論で叩くんじゃない、泣いちゃうだろ」
「あは~、それはそれでバズりそ~」
「投稿しようとすな」
シレッと鬼畜な発言をする杏珠だった。意外と冷たいやつなのだ、こいつは。
依然として、不満たらたらな俺に、杏珠はふっと息を吐くようにして笑う。
「ど~せ、なるようにしかならないし。むす~っとしてるより、気楽でいた方が、少なくとも悪いことにはならないんじゃないかな~?」
「……はいはい、わかったわかった。切り替えればいいんだろ」
切り替え切り替え。
言葉で言うのは簡単だけれども、自分のこととなるとなかなか難しい。
嫌なものは嫌だし、避けたいものは避けたい。そりゃそうだ。
だけど、そう何でもかんでも思い通りにいくわけがないのが、人生というものでもあるのだろう。
致し方無い、というやつだ。俺がこの学園に通わざるを得なかったように。
「ひとまずは、メリット面を見てみるよ、それでいーんだろ」
「あは~、良くできました~。あ、頭とか撫でてあげよっか~?」
「超いらねぇ……おい! いらないって言ったろ!」
がおーっと猛犬の如く威嚇するものの、杏珠は呑気に笑うのみだった。
俺のことを嘗めすぎなんだよな、こいつ……。
それから過度なスキンシップはやめてほしい。万が一にでも惚れちゃったらどうするんだ。
「仮に惚れちゃったら、浮気ってことになるよね~? それはそれで、面白いかな~って」
「俺で遊ぶのやめようね? いや万が一にも惚れないけどね? 本当に……」
溜め息+睨み付けで威嚇を続ける俺の頭を、杏珠はわしゃわしゃと乱雑に撫でこすりながら笑う。
「梓川さん──登録カップルへの過度な接触は減点対象となります。すぐに離れるように」
瞬間、冷たい声音がスッと刃みたいに背後から振り下ろされた。
振り返るとそこにいたのは、当然というべきか、月之上月夜が立っている。
杏珠が「わお~」と驚いたような、面白がるような顔で、俺から離れた。
「あは~、ごめんなさい、副会長~。悪気はないんです~」
「ええ、分かっています。今後は気を付けるように──それから、おはようございます。三方ヶ原くんも、おはよう」
「あ、ああ、おはよう」
「声が小さいですね、次からはもっと胸を張って、挨拶するように」
では行きましょうか。なんて、月之上副会長は当たり前みたいに俺の手を取った。
白魚みたいな指が、するりと俺の片手を絡め取る。
「え? は!? ちょ!? 何!?」
「何、ということはないでしょう。私たちのステータスは交際中。既に登録済みのカップルです。恋人というのは、二人で登校するものなのでしょう?」
「は──」
何言ってんだお前、という言葉を出す暇はなかった。
呆然とした俺の手を引いて、月之上副会長は歩き出す。
同じく口を呆けるように開いた杏珠の、
「わお、副会長ってば意外とだいた~ん」
とかいう、語尾に音符でもついてそうな呑気な野次が、いやに耳に残った。
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